カフカ著、頭木弘樹 編『決定版 カフカ短編集』を読む

 カフカ著、頭木弘樹 編『決定版 カフカ短編集』(新潮文庫)を読む。なぜ今カフカ短編集かと思ったら、編者の頭木は20歳で難病になったと後書きで書く。13年間の闘病生活で、『決定版カフカ全集』(新潮社、全12巻)をかたわらに置いて、全巻をそれぞれ100回以上は読んだのだと言う。それで知ったカフカのすばらしさを知ってもらいたいという。新潮文庫では『変身』は入っているが、カフカの短編集はなかったからだと言う。

 本書には15編が収録されているが、最初の「判決」「火夫」「流刑地にて」の3編はカフカ自身が気に入っている作品、それ以外は読者が気に入っている作品だということだ。15編すべてが新潮社の『決定版カフカ全集』の訳をそのまま使っている。

 私がカフカを読んだのは高校生の頃から数年間だったろうか。「変身」とか「城」とか「掟」などの不条理な作品に惹かれたのだった。日本でもカフカの影響を受けた作家は多く、安部公房とか倉橋由美子とかが著名で、私もそれらの作家を読み込んでいった。倉橋由美子カフカに倣って主人公を「K」とまで名付けていた。

 さて、久しぶりに読んだカフカはすでにあの奇妙な作品を書く特別な作家ではなかった。いや、カフカは特別な作家であることは変わらないが、すでに多くの作家たちから模倣されていた。消費されていたと言ったら言い過ぎだろうが。私が最初に読んだころからもう60年が経っているのだ。文学がもし停滞しているのでなければ、それは仕方ないことだろう。50年前に夢中になって読んだヌーヴォー・ロマンさえ、もう読む人もいないだろう。ヌーヴォー・ロマンの期待の星だったフィリップ・ソレルスでさえ、その後この運動を裏切ったのだった。

 とは言え、長編『訴訟』(講談社古典新訳文庫)は15年前に買ってまだ読んでいない。これは旧訳では『審判』の名前で翻訳出版されていた。長編『失踪者』(旧訳は『アメリカ』)はまだ買っても読んでもいない。

 なお、この2冊の名前を混乱して記憶していた。爛漫亭さんから指摘していただいた。