和田誠・村上春樹『ポートレイト・イン・ジャズ』(新潮文庫)を読む。55人のジャズメンたちを取り上げて、和田誠のイラスト、村上春樹の文章で構成されている。とても楽しい本。ジャズメンの選択は和田誠が好きに選んで個展で発表し、それに村上が関連するエピソードや彼自身の思い出などを書き綴っている。
そんな経過から一流のジャズメンたちは皆取り上げられているが、キース・ジャレットやチック・コリア、コルトレーン、マッコイ・タイナー、マル・ウォルドロンなど重要なジャズメンたちが抜けている。ジャズ・ヴォーカルも少ない印象だ。
和田誠のイラストはあまり評価できないが、村上春樹の文章は楽しい。基本、和田のイラストが1ページ、村上の文章が4ページ、取り上げたアルバムの写真と簡単な解説が1ページという構成で、村上の文章が長ければもっと良かったのに。
僕はこれまでにいろんな小説に夢中になり、いろんなジャズにのめりこんだ。でも僕にとっては最終的にはスコット・フィッツジェラルドこそが小説(the Novel)であり、スタン・ゲッツこそがジャズ(the Jazz)であった。
彼(ソニー・ロリンズ)のアルバムの中で好んで聴くのは、最も長い沈黙から復帰した直後に吹き込まれた『橋』(”The Bridge”)だ。音の縦方向の配列が生き生きとして、音のひとつひとつにこれまでにないどろんとした芯があり、それでいて本来のスピードは失われず、陰影を含んだ内省が漂っている。
ウェス・モンゴメリーのギターを初めて聴いたときに感じたのは、この人の演奏はほかの誰ともぜんぜん違うということだった。トーンといい、奏法といい、まったく新鮮そのものだった。それも苦労して頭で考えて創出されたものというより、どこかそのへんから自然に自由にわき出てきたというおおらかな雰囲気があり、いや、これはすごいなと感心しないわけにはいかなかった。
楽しい読書だった。