うしお画廊の淀井彩子展を見る

 東京銀座のうしお画廊で淀井彩子展「―芯・時間・色彩Ⅱ」が開かれている(9月23日まで)。淀井は1966年に東京芸術大学美術学部油画科を卒業し、1968年に同大学大学院油画専攻を修了している。その後フランス政府給費留学生としてパリに留学。2011年まで青山学院女子短期大学芸術学科教授を勤めていた。1971年にみゆき画廊で初個展、2012年には横須賀美術館で個展を開いている。淀井は長くみゆき画廊で個展をしていたが、みゆき画廊が閉じた後、2017年から毎年うしお画廊で個展を開いている。

 淀井の言葉、

不在の果肉を食みながら絵画という行為で記録する。

 

洋梨、芯、彼女の不在の空間で生じた喪失と補充の感覚。

10数年ぶりに広げた画面は、時間・色彩が清々と見えた。

私という存在を自由に出入りし、絵画という形をとらせる何かが在るらしい。

 



 今回淀井は洋梨の芯をモチーフに作品を作っている。淀井は15年前にパリで娘の若林砂絵子を病気で亡くしている。亡くなった娘の部屋の後片付けをしながら娘の不在、その空虚さに耐えられず悲鳴をあげた。前日も食べていた洋梨の芯をカンヴァスの端切れにピグメント・スティックで描いた、翌日も描きつづけた、という。それを久しぶりに取り出して今回の作品が完成した。そのことを「洋梨、芯、彼女の不在の空間で生じた喪失と補充の感覚」と書いている。

 淀井はあたかも中東の砂漠を俯瞰したような作品を作っていた。俯瞰だから作品は平面的だった。今回は洋梨の芯をモチーフにしている。洋梨の芯は立体的だ。しかし今回の作品はやはり平面的な造形になっている。この平面的な造形が淀井の特徴なのだと思う。浮世絵やマチスなどと共通する平面性だ。

 淀井の眼には洋梨の芯の造形の向こうに娘の思い出が続いているのだろう。

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淀井彩子展「―芯・時間・色彩Ⅱ」

2023年9月11日(月)―9月23日(土)

11:30-19:30(最終日17:00まで)日曜休廊

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うしお画廊

東京都中央区銀座7-11-6 GINZAISONOビル3F

電話03-3571-1771

http://www.ushiogaro.com/