土井善晴『一汁一菜でよいという提案』を読む

 土井善晴『一汁一菜でよいという提案』(グラフィック社)を読む。土井は著名な料理研究家、その土井が家庭料理に対して一汁一菜でよいと大胆な提案をしている。その一汁一菜とは基本的にご飯に味噌汁に漬物だけのことだ。

 毎日3食、ずっと食べ続けたとしても、元気で健康でいられる伝統的な和食の型が一汁一菜です。毎日、毎食、一汁一菜でやろうと決めて下さい。考えることはいらないのです。これは、献立以前のことです。準備に10分も掛かりません。5分も掛けなくとも作れる汁もあります。歯を磨いたり、お風呂に入ったり、洗濯をしたり、部屋を掃除するのと同じ、食事を毎日繰り返す日常の仕事のひとつにするのです。
 「それでいいの?」とおそらく皆さんは疑われるでしょうが、それでいいのです。私たちは、ずっとこうした食事をしてきたのです。

 プロの作る料理と家庭料理は違うという。プロの作る料理の目的は客を満足させることで、家庭料理の目的は自分と家族の健康だ。家庭料理がいつもいつもご馳走である必要も、いつもいつもおいしい必要もない。
 そして土井は合理的な米の扱いと炊き方をていねいに解説する。具だくさんの味噌汁についても味噌の種類から具の選択までさまざまな種類を提案する。そしてこんなことを言っている。

……こうした味噌汁は毎回違う味になります。再現性はありませんし、あまりおいしくならないこともありますが、たまにびっくりするほどおいしくできることもあります。そのうち、おいしいとかまずいとかは大きな問題ではないことがわかります。具を煮込むうちに煮汁が少なくなってしまうこともありますが、味噌汁から味噌煮込みに、また味噌煮という煮物に変わってゆくのです。これで、汁物と煮物の関係が理解できます。

 これは料理に関する本というより、料理を通した生活の考え方の大きな転換の提案だ。生活の姿勢の根本的な見直しの提案だ。その提案に乗ってみようと思ったのだった。

 

 

一汁一菜でよいという提案

一汁一菜でよいという提案