岡本太郎『原色の呪文』を読む


 岡本太郎『原色の呪文』(講談社文芸文庫)を読む。副題が「現代の芸術精神」とあり、岡本太郎の芸術論がまとめられている。とは言え、短い文章が多く、雑誌などに掲載したものを集めたエッセイ集といったもの。
 短いものを集めただけあって、岡本が主張している対極主義や、芸術宣言、ピカソへの挑戦等々、日頃岡本が主張していた事柄が採録されている。その芸術宣言、

今日の芸術は、
うまくあってはいけない。
きれいであってはいけない。
ここちよくあってはならない。

 「巧くなければならない」「きれいでなければならない」「心地よくなければならない」というのなら、それに対して「巧くなくてもよい」「きれいでなくてもよい」「心地よくなくてもよい」と言うのなら分かる。本当は岡本もそう言いたいのだろうが、センセーショナルであることを自分の戦略として採っているのでこのようなオーバーな物言いになってしまうのだろう。岡本は大向こうをうならすことを第一義としているかのようだ。それは多分本当には自分に自信がないためではないか。
 世間の人気とは裏腹に岡本の作品を優れたものとみることができない。「森の掟」「重工業」「明日の神話」などが代表作だろうが、いずれも高く評価することはできない。「痛ましき腕」がなかでも良い作品だと思われるが、似たテーマの鶴岡政男の「重い手」に比べれば一段下のものと評価せざるを得ない。「太陽の塔」についても、万博で建てられたこと、大きいことを除けばそれ自体に優れたものを見出すことはできない。
 本書『原色の呪文』もとりたてて見るべきほどのものはなかった。ただ、このような形で刊行されたことは、岡本の検証にあたって無意義なものではなかったと思う。そのことは評価したい。