岩下明裕『北方領土・竹島・尖閣、これが解決策』(朝日新書)を読む。2013年7月に発行されたが、その10月6日に朝日新聞の読書欄に萱野稔人が書評を寄せていた。その書評で萱野が高く評価しているのを読んですぐに購入した。しかしそのまま本棚に差して2年半近くたってしまった。時事問題を扱ったものは古びるのが早いとようやく手に取った。全く古びていなかった。
3つの地域のうち萱野は北方領土を最も重視している。それは関係する面積(海域も含め)が極めて大きく、住民に対する経済的影響も他と問題にならないくらい大きいためだ。著者は国境学の専門家で中露国境の問題を長く研究してきた。その経験から次のような基本認識を語っている。
……中露の国境問題はフィフティ・フィフティにより、係争地を分け合って解決した。にもかかわらず、領土をめぐる言説はいまだに歴史論争として続いている。逆から考えることもできる。歴史論争が続いていても、領土問題を解決することは可能だということである。そうであれば、いかに領土問題を歴史問題から切り離すか、隣接する国の空間利用として、機能的に考えることはできないか、すくなくとも歴史にからめとられない新たな言説をつくり出すことはできないか。歴史の呪縛から自由になるのは容易ではないが、方法はそれしかない。
本書を読んで初めて国境問題のことが明確にイメージできたと思う。戦争でもない限り一方的な主張を押し通すのは難しいことはよく分かる。国境問題は双方の利害が大きく関係している。その落としどころを冷静に見極めて交渉することが大切だろう。著者の冷静な分析に感嘆した。と同時に中国がかつて中露国境の珍宝島(ダマンスキー島)を攻略して占領したときの事例も紹介され、決して楽観視するばかりではないことも示している。 北方領土・竹島・尖閣を考えるときの必読書ではないだろうか。

- 作者: 岩下明裕
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2013/07/12
- メディア: 新書
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