牛脂注入肉のニュースで思い出した

 牛脂注入肉という加工肉の記事が朝日新聞に載っていた(11月14日)。

 ほとんど脂のない赤身の肉が、剣山のような機械を通り抜けると、霜降り肉のような姿に変わっていた。その間、わずか1、2分。(中略)
 赤身肉の塊がベルトコンベヤーを流れていく。主に豪州産とニュージーランド産の、出産を経験した「経産牛」を原料に使うという。
 剣山のような機械は「インジェクター」と呼ばれる。下向きに長さ20センチほどの針が200本以上あり、下を通る肉を突き刺しては上がる。この動作を肉が通るたびに整然と繰り返す。突き刺したときに注入される牛脂は国産牛の脂を精製したもの。風味がよくなるアミノ酸などの添加物も入っているという。(中略)
 加工前と後の肉を焼いてもらって試食した。加工前の肉はかたく、かみきれない。食感もパサパサで、うまみがほとんどなかった。
 牛脂注入肉は一度でかみ切れるやわらかさ。何よりジューシーで、うまみが口に広がった。(後略)

 これを読んで思い出したことがある。もう10年ほど前になるか、取引先の印刷会社の営業マンをしていた川上さん(仮名)が脱サラして、安価なステーキを食べさせるフランチャイズ店に参加し、店長だったかオーナーだったかになった。案内を受けて食べにいってみた。ランチのステーキ定食が1,200円ほどだったか、量もそこそこで結構うまかった。知人にも勧め、ランチを2、3回ほど食べに行ったと思う。
 ある時、ランチのステーキ定食を食べたが、いつもと違って肉が何の味もしなかった。食感だけは肉なのだが、旨味がほとんどなかった。川上さんがいなかったので店員にまずかったと言い、名乗って川上さんに伝えてくれるよう言って帰ってきた。
 帰社したとき、川上さんから電話があったことを伝えられたが、もうランチのことは忘れていて、別の川上さんに電話すると、自分は電話などしていませんと言われて、そのことはそれっきりになってしまった。その店はまだ京橋の同じ場所にあるが、それ以来一度も行っていない。
 それまでおいしいと思って食べていた肉が、なぜこの時おいしくなかったのか、もしかすると何らかの方法で加工していたものを、その時食べた肉だけ加工し忘れたのかもしれないと漠然と思っていた。今度の牛脂注入肉の記事を見て、あれは牛脂注入をし忘れた肉だったのかもしれないと思っている。