『からだの中の外界 腸のふしぎ』を読んで思ったこと

 上野川修一『からだの中の外界 腸のふしぎ』(ブルーバックス)を読んだ。腸がからだの中にある外界だという主張に惹かれて読んだのだが、期待は半ば外されてしまった。「からだの中の外界」という副題から、脳とは別のコントロールセンターについて詳しく語られるのを期待していた。本書のテーマは腸についての生理学的機能的な解説だった。
 ただ知りたいことも書かれている。食物が口から入ると食道を通り、胃、十二指腸、小腸、大腸、結腸を経て排泄される。消化器官は食物を弁別し、それに応じてホルモンを出し酵素を分泌する。酵素によって食物は分解され、腸壁から吸収されて栄養になる。この過程で脳はほとんど関与することがない。逆に言えば、脳は消化に関する過程をコントロールすることがない。脳と消化器官は別々の指令に従って行動している。
 消化器官、内臓に脳が直接には関与していないことが興味深い。内臓=体は本来脳とは別の原理で動いているのではないか。体は脳が関与しなくても機能する。そして体は下等生物でも持っているが、脳は高等動物に限られる。そうすると体が基本的な存在であって、脳は進化に従って発展してきたのだ。こんなことは今さら言挙げするまでもない。
 そのとき、脳の機能はどんな契機から発展してきたのか。体が基本で脳がその後で現れた。さらに最近の脳科学の研究から、脳が指令を発する直前にすでに筋肉が動き始めているという事例が報告されている。すると脳は自己認識のために発生し進化してきたのではないか。意図や行動を後追いして納得するためではないか。
 体が選択し行動を始めたことを、あたかも脳が選択し行動に移したかのように考えている。下等動物では脳がなくとも生きているのに対し、高等動物では脳の存在が必須となっている。しかし、脳の機能を過大評価するのではなく、もともと体の補完機能として脳があると考えること。ただ、人間においては脳が高度に発達したために、脳の機能はとてつもなく大きなものになっていることは事実だ。だが体が基本だということを踏まえて、脳のことを考えてゆきたい。
 本書でも大脳には数百億個の神経細胞ニューロンがあるのに対して、腸のニューロンは約1億個で、これは脊髄のそれと同等だと述べられている。アメリカの研究者マイケル・ガーションが腸は「セカンドブレイン」(第2の脳)だと言っている。むしろ腸こそが第1の脳、あるいは原脳と言って良いのではないか。
 脳を偏重するのではなく、体を重視した身体論を読みたい。


からだの中の外界 腸のふしぎ (ブルーバックス)

からだの中の外界 腸のふしぎ (ブルーバックス)