「メディアと日本人」(岩波新書)を読む

 橋元良明「メディアと日本人」(岩波新書)を読んだ。5月29日の朝日新聞の書評で、姜尚中が「実に読みがいのある新書である」と書いていた。ネットが普及して日本人の生活がどう変わったか変わらなかったか、著者が15年来実施している「日本人の情報行動調査」のデータをもとに分析したもの。
 15年間のテレビの視聴時間をみると、「50代、60代はあまり変化がないものの、40代以下の層では一貫して減少しており、とくに10代の減少率(1995年183.5分から2010年112.9分へ)が大きい」。3時間テレビを見ていたのが2時間弱に減ったのだ。
 新聞の発行部数は1999年に5,400万部近くあったものが、2010年には5,000万部を割ってしまった。1日の新聞を読む時間も減少し、30代で1995年の24.5分から2010年の8.9分に、40代は32.2分から14.4分へ激減した。半分から3分の1だ。
 この間インターネットが急成長し、テレビ、雑誌、新聞に取って代わってきた。しかし読書時間は意外に減っていない。
 15年間にわたる膨大なデータを駆使して興味深い分析が示される。さらに巻末には提示されたデータの元の数字が示されている。なかなかおもしろい本だった。
 途中テレビの功罪を論じているなかに、NHKが放送した「セサミストリート」に対する問題点が紹介されていて、ちょっと考えさせられた。

セサミストリート」は元来、低所得者層の非白人系の児童を主な視聴対象と想定し、小学校就学までに、アルファベットと数字を覚えさせることを番組制作の目的とした教育番組であり1969年に始まった。教育熱心でない親のもとで育てられた子どもたちにも番組への関心を持続させるために、制作にあたっては、教育工学者や心理学者だけでなくCMプランナーの意見も参照している。その結果、早い場面転換、極端に短い間、高頻度で駆使されるズームや左右動、めまぐるしい音量変化などの技法が駆使された。

 夫婦で学習塾と音楽塾を開いていた知人が、一人息子に子守り代わりとして幼い頃からビデオのセサミストリートを見せていた。その子を一時預かったカミさんの話では、クリスマスの頃エレベーターの天井を飾った電飾ランプを見て彼は一言「sky!」ときれいな発音で叫んだという。「OK」は10通りもの言い分けができたらしい。成長してあの子はどうなっただろう。


メディアと日本人――変わりゆく日常 (岩波新書)

メディアと日本人――変わりゆく日常 (岩波新書)