坪内稔典『季語集』(岩波新書)を読む。俳句の季語を300語取り上げ、その解説と例句を紹介している。初出は毎日新聞に連載したもの。新書にまとめるにあたって、さらに例句を2句追加している。
とても勉強になった。そういう意味では有意義な読書ではあった。坪内は伝統的な季語に、バレンタイン、春一番、あんパン、原爆忌など新しい季語を加えている。当然ながら例句に自分の作品を挙げている。なかから坪内の句を拾ってみる。
立春の翌日にして大股に
風光るケープタウンの窓もだろう
三代の女ばっかり木の根開く
春の風ルンルンけんけんあんぽんたん
三月の土を落としてこんばんは
花菜漬遠くの友のすこやかに
朝寝して耳のきれいな人のそば
はんなりと午前の窓の東山
よもぎ餅途中で買うて古墳まで
あんパンに空洞窓に楠の花
河馬へ行くその道々の風車
磯巾着になろうか昼をころがって
多分だが磯巾着は義理堅い
口あけて全国の河馬桜咲く
全国の河馬がごろりと桜咲く
殺人があったぱかぱかチューリップ
炎天に山あり山の名を知らず
木の下のあいつ、あいつの汗が好き
朝五時のひかりのままにこの薔薇は
愛はなお青くて痛くて桐の花
睡蓮へちょっと寄りましょキスしましょ
柿若葉カミさんと地図買いに出て
そのことはきのうのように夏みかん
びわは水人間も水びわ食べる
小錦のだぶだぶと行く残暑かな
海鳴りに鼻の大きな家族かな
河馬たちが口あけている秋日和
盆飯に来ている天道虫ふたつ
行きさきはあの道端のねこじゃらし
がんばるわなんて言うなよ草の花
心とは火の崩れた字落ち葉焚く
父と子と西宇和郡のなまこ噛む
まとめて読むと坪内稔典の俳句って何か変だ。
「冬・新年」の季語「木枯し」についての項。
木枯しは晩秋から初冬の北西寄りの季節風である。凩とも書く。
「凩の果てはありけり海の音」は芭蕉と同時代の俳人、池西言水の俳句だ。彼はこの句が有名になったために、「凩の言水」と呼ばれた。(中略)
近代の木枯しの俳句と言えば、言水の句を踏まえた「海に出て木枯らし帰るところなし」であろうか。山口誓子の作。言水に反して、木枯しには帰るところ(果て)がないと誓子は言う。(後略)
あれ、山口誓子の木枯しの句は特攻隊の兵士を詠んだものだって言わなくていいのかな? それとも、それって定説じゃないんだろうか。
全体にあまり読みやすい文ではなくて、読み終わるのに普段の倍の日数がかかってしまった。ネンテンさんて、こういう文章があまり得意じゃないみたい。

- 作者: 坪内稔典
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/04/20
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