専門家の読書量

 東大出版会のPR誌「UP」4月号に、立花隆と対談をした小林康夫がそれを要約して報告している。その中から専門の研究者になるための読書量について触れている部分を取り上げる。

 立花さんは、大学に入ったときの読書について語りはじめる。


立花  要するに、十代の少年として大学に入るじゃないですか。入ってしばらくの間はものすごい知的刺激が襲いかかってきますよね。サークルや授業やいろいろなところに行って顔を出してみると、やっぱりすごい連中というのはたくさんいるわけです。その連中と対等に話ができるために、まず本を読まなければという感じで、山のように読む。もう、日々、読書という感じ。最初は寮じゃなかったんですが、数か月後には駒場寮に入っていて、そこで朝から晩まで本を読んでいる。だいたいそういう生活になりますよね。


 そう、若い読者のために、この点は強調しておいていい。18歳からの数年間にどのくらい本を読んでいるのか、ということは、狭く文科系の学生に限らず、決定的に重要。1日1冊読んだって、たかだか1年に300冊、学部4年間で1,000冊あまりしか読めない。で、はっきりと言っておくが、もし人文系の研究者にでもなろうと思うのなら、1,000冊くらいではまったく話にならない。どんな分野でも、どんな対象でも、指数が4桁以上にならなければ専門家とは言えないだろう。その自覚も訓練もなくて、大学に、ましてや大学院にいるというのはどういうことだろう、と最近は暗澹たる気持ちになることがある。本は、単なる情報の集合などではなくて、どこかクレージーなものだ。その狂気につきあうには、読む方もどこかで常軌を逸することが必要。大学という場所にはそのような狂気じみたパッションが確保されていなければならない。

 4桁以上ということは1万冊ということだ! ふうっ。18歳から45年間弱でその半分も読んでいないのではないか。