宮下規久朗「ウォーホルの芸術」を読んで

 宮下規久朗「ウォーホルの芸術」(光文社新書)を読んだ。画家の伝記などを読むとその画家に強い興味を抱かされ、画家が好きになることが多いが、本書でウォーホルについて詳しく知ってウォーホルが嫌になった。
 ウォーホルはキャンベルのスープ缶の作品でデビューした。そして次に「商品の荷造り用の段ボール箱をまったく同じサイズとデザインに模した立体作品」を発表した。「それらを会場内にびっしりと天井まで積み重ねて展示したため、画廊は商品倉庫のような感を呈したという」。マリリン・モンローが自殺したというニュースをラジオで聞くとすぐにモンローのシルクスクリーン作品にとりかかる。これが成功する。その後プレスリーエリザベス・テイラーシルクスクリーン作品にする。
 私が知らなかったのは「死と惨禍」シリーズだった。飛行機事故の新聞写真や交通事故の死者たちの写真をシルクスクリーンにしている。さらに電気椅子も重要なテーマだった。誰もいない無人の部屋の中央に置かれている電気椅子、この作品が何種類も作られている。人種暴動の写真や指名手配された凶悪犯のポスターも作品に取り上げられた。

「死と惨禍」シリーズの最後に着手されたのが、ケネディ暗殺のテーマである「ジャッキー」のシリーズである。これは、第2章で扱った「有名人の死」と前章で見た「権力への恐怖」を合わせた主題であり、もっとも多くのバージョンが作られた。

 ジャッキーとは言うまでもなく暗殺されたケネディ大統領夫人であるジャクリーン・ケネディである。
 ついで花の写真がテーマにされた。あちこちで何度も見かけるあの作品だ。まるで壁紙のように。こんな作品が、「非常な好評を博した。批評家にはマネの睡蓮にたとえられたり、またマチスの切り紙絵と比べられたりした」。何という悪い冗談だろう。
 さらに毛沢東の肖像を作品にした後、注文肖像画制作=ビジネス・アートを始める。「誰でも一定の額、2万5,000ドル、2点セットなら4万ドルを払えば、その肖像画を作るというシステムであった」。「日本人でも勅使河原蒼風夫妻や坂本龍一、コレクターのジョン・パワーズの夫人キミコ・パワーズ日動画廊の長谷川智恵子らが肖像画を制作してもらっている」。
 戦後アメリカでは抽象表現主義が美術界を席巻した。アメリカを席巻した美術は世界を席巻する。しかし、抽象表現主義絵画はアメリカでさえ売れなかった。その後に現れたウォーホルらのポップ・アートはアメリカの現代美術の主流になった。抽象表現主義と異なりポップ・アートはよく売れた。大衆が支持したからだ。マリリンやジャッキー、プレスリーの絵だったら大衆でもよく分かる。そこまではいい。しかし、ウォーホルが世界の現代美術のトップだという評価には断じて反対する。こんなものは単なるクソじゃないか。一体ウォーホルの作品に感激する人がいるのだろうか。いや失礼。これ以上ウォーホルについて書くのはもうやめよう。

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)