天袋の中のポルノ写真

 もう30年ばかり前のことになるが、北陸の県立農業試験場の研究者がポルノ写真をコレクションしていた。現在と違って当時そのような写真を入手するのは本当に至難だった。たいていの人は一生に数枚程度しか見ることがなかっただろう。
 しかしマニアはいるのである。その研究者はどのようにしてか、膨大なコレクションを持っていた。それらの写真を分類し、日本人、レズ、ホモ、白人と白人、白人と黒人、黒人同士、動物と人間、SM、スカトロとか、そんな風に分類してアルバムに整理していた。そのアルバムを押入の天袋に大量に保管していた。それが彼の留守中奥さんに見つかり、何とその見事なコレクションをすべて焼却されてしまった。
 彼が偉いのはこれからだ。仕方ない、また初めからやり直しだと言った。私はこのエピソードを鏡としている。ほとんどすべてを失って、しかし絶望することなく、怒ることもなく、淡々とポジティブに初めからやり直そうという姿勢を。