中津川浩章個展を見る

 東京浅草橋のマキイマサルファインアートで中津川浩章展を見る。(1月20日まで)
 中津川の個展をもう10年余見てきている。最初中津川は抽象だった。指を使ってアクリル絵の具でドローイングするスタイルは初めから今日まで変わっていないが、5年ほど前のギャラリー日鉱での個展から具体的なイメージが現れてきた。それまで線を主体とする抽象だったのが飛行機とか建物をイメージさせる具体的な形が現れてきたのだ。具体的な形とは言っても写実的な具象画とは全く違う。抽象を描いていた頃、良い画家だと思っていたが、日鉱の個展でそれまでと違う面を見て一皮むけたという印象を持った。確実に作品が深化していたのだ。
 さて今回の個展だが、イメージはさらに展開して人物が現れた。部屋に閉じこめられた人物のイメージや、殺されたのか倒れている人物が描かれている。中津川は大きく弧を描いて変わりつつある。その現場に立ち会っている。
 銀座のギャラリーなつかで個展をしている母袋俊也の作品にも明確な風景が描かれている。赤塚祐二も具体的なイメージ=人物を描き始めている。中堅の抽象の作家たちの絵にイメージが現れ始めているのは偶然ではないだろう。抽象が行き詰まっているのだろうか。作家たちは具象(写実ではなく)に戻り始めているのか。こちらには豊かな果実が収穫を待っている、そういうことだろうか。