アート・フロント・ギャラリーで浅見貴子展「光合成」を見る


 東京代官山のアート・フロント・ギャラリーで浅見貴子展「光合成」が開かれている(3月29日まで)。浅見は1964年埼玉県生まれ、1988年に多摩美術大学絵画科日本画専攻を卒業している。1992年に藍画廊で初個展をした後、毎年個展を開いている。またアーティスト・イン・レジデンスで大原美術館に滞在して制作したり、ニューヨークに滞在して制作したりもしている。
 浅見はガラス絵のように紙の裏から描いている。また初期には抽象画を描いていたが、しばらく前から具象画、具体的には樹木の葉叢を描くようになった。浅見のように以前抽象画を描いていて具象画に変わった作家として、中津川浩章や母袋俊也、赤塚祐二、丸山直文らがいる。彼等のうち特に成功したのが浅見と中津川で、そうではないと思われるのが赤塚と丸山というのが私の印象だ。



 浅見は具象に変わってきわめて豊かな世界を手に入れた。見ていてとても気持ちの良い画面だ。4年ほど前、講談社のPR誌『本』の表紙に取り上げられたことがあった。その時の高階秀爾の解説が秀逸だった。高階の解説から、

 一見したところ、画面は大小さまざまの墨の点を滴らせた抽象模様のように見える。大きな塊はまるで雪の上の動物の足跡のようであり、微細な点の連りは蟻の行列を思わせる。しかしそのなかでのびやかに伸びる描線に眼をとめると、乱雑に散らばっていると見えた点は葉叢(はむら)となって秩序づけられ、枝ぶりの豊かな樹木の姿が立ち現われる。同時に、白地の部分は遠くに拡がる空となり、空気が流れ、光に満ちた空間が生まれる。それは、墨による新しい世界創造と呼んでもよいだろう。(中略)
……明るい光と爽やかな空気が息づく清新な風景を生み出したこの作品は、たしかに一人の傑出した才能の存在を物語っているのである。

 浅見が描く世界は、やはり樹木を鉛筆で描いている日高理恵子を思い出す。日高が冬の枯れた樹木の枝を大きな画面で描いているのに比べ、浅見は繁る葉叢を描いている。日高の画面が空に象眼されたように静かで堅牢なのに対して、浅見のそれはさわさわと揺れ動くように軽やかで華やかだ。浅見は確実に自分の確固とした表現を手中のものにしている。
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浅見貴子展「光合成
2015年3月6日(金)−3月29日(日)
11:00−19:00(月曜日休廊)
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アート・フロント・ギャラリー
東京都渋谷区猿楽町29-18 ヒルサイドテラスA棟
電話03-3476-4869
http://www.artfrontgallery.com/
東横線代官山駅 徒歩数分