巧い下手って何だろう

 巧い下手って何だろう。朝日新聞に連載している林真理子の小説「マイストーリー」の挿絵を三溝某が描いている。その316回目の絵がこれ。

 男二人が喫茶店で向かい合って「トーストをがりりと噛んだ」と書かれている文章に付けられた絵だ。トーストを持った男の指がクレーンの先に付いている爪のようだ。この男の右手はどこから出ているのだろう。二人羽織じゃないけれど、別の人の腕のようだ。つまりデッサンができていない。
 ではデッサンができていなければそれはつまらない絵になってしまうんだろうか。デッサンがものすごく下手で優れた絵を描いた画家がいた。丸木スマだ。丸木位里の母親、嫁の丸木俊に勧められて70歳から絵を描きはじめた人。デッサンの勉強など一度もしたことがないだろう。でも埼玉県立近代美術館で個展が開かれた人。その丸木スマの絵。


丸木スマ「母猫」


丸木スマ「めし」
 4匹の猫が食器を囲んで一緒に食べている。中央下方には小さな子猫が2匹おこぼれにあずかっている。スマの描く動物はみなティラノザウルスのような情けない手をしている。
 下手な絵なんだけど、良い絵だ。巧い下手って何だろう。