李禹煥2題

 つげ義春に『李さん一家』というマンガがある。「僕」の2階に李さんという朝鮮人一家が住みついている。奥さんと子どもが2人、李さんは定職がなく相当な怠け者なので生活は苦しい。奥さんは僕が作ったキューリを時たま失敬していく。庭に作ったドラム缶の風呂で奥さんがのぼせて、李さんと僕が2人で運び出したこともあった。

 そんなマンガだが、何とこの李さんのモデルは李禹煥なのだという。李禹煥は一時多摩美術大学で教えていたことがあって、その時学生にあのマンガの李さんというのは自分だとカミングアウトしたという。

 

 この絵葉書は2022年に国立新美術館で買ったものだ。この時大々的な李禹煥展が開かれた。この絵葉書の作品もそこに展示された。大きな鉄板を刳り抜き、切り取った鉄板の上にいつもの大きな石を置いている。そして刳り抜かれた鉄板を背後の壁に展示している。このような造形は初めて見た。これは何だろう?

 ポロックに「カットアウト」という作品がある。いつものドリッピングの作品の中央を人型に刳りぬいたものだ。大原美術館が所蔵している。ポロックはドリッピングの作品に行き詰まりを感じていたのではないか。画期的な技法だったが、それ以上の展開はなかった。そこから抜け出そうと「カットアウト」を作ったりして模索していたのではないか。そしてポロックはドリッピングの技法を封印し、数年後事故で亡くなってしまう。

 李禹煥も鉄板に石を載せるという「もの派」の仕事に行き詰まりを感じたのではないか。それでこのような鉄板を刳りぬいた作品を作り、マンネリから脱却することを模索したのではないか。しかし、その思惑とは別に李禹煥の作品は美術市場では圧倒的な人気があり、市場は李禹煥にもの派的作品からの撤退を許さなかったのではないか。それで李はマンネリを感じながらも同じような作品を作り続けているのではないか。かなり大胆な一ブロガーの感想である。

ポロック「カットアウト」