山本文緒『無人島のふたり』を読む

 山本文緒無人島のふたり』(新潮社)を読む。作家である山本文緒が2021年4月膵臓がんと診断され、そのとき既にステージ4bだった。治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしか手立てはなかった。抗がん剤治療は地獄だった。山本は医師やカウンセラー、夫と相談し、緩和ケアへ進むことを決めた。

 医者は抗がん剤治療をしなければ120日の命だと言った。4か月の命だ。山本は5月24日から日記をつけ始める。この本は山本の亡くなるまでのその日記だ。

 膵臓がんですでに転移もあり、放射線治療も考えられない。セカンドオピニオン国立がん研究センターでも見立ては変わらなかった。

 体調は徐々に悪化するが具合の良い日もある。しかし突然発熱したり起きられない日もある。食欲はあまりない。

 断捨離を実行する。衣類や鞄、東京に借りていたマンション、車、本の類い。

 体調が良いと思った日の夜、突然発熱し救急車で病院へ搬送される。入院。

 数日間の入院がこたえた。体調は少しづつ悪化している。入浴するとその後は疲れて絶不調になってしまう。あるいは少し家事をしただけで目まいがして寝込む。ソファに5分も座っていられない。

 ステロイドを処方されると驚くほど食欲もわいて元気になった。しかしステロイドの副作用で寝られなくなった。

 8月17日、がんセンターの医者の余命告知の4カ月が経った。

 体のむくみがひどくなって腹水をぬいてもらった。2リットル抜かれた。体が軽くなった。その後は元気がある日とない日を繰り返している。

 

10月4日(月)

 昨日から今日にかけてたくさんの妙なことが起こり、それはどうも私の妙な思考のせいのようだ。これでこの日記の二次会もおしまいになる気がしている。とても眠くて、お医者さんや看護師さん、薬剤師さんが来て、その人たちが大きな声で私に話しかけてくれるのだけれど、それに応えるのが精一杯で、その向こう側にある王子の声がよく聞こえない。今日はここまでとさせてください。明日また書けましたら、明日。

 

 この日の日記を最後に、山本は9日後の10月13日永眠した。

 同じがんを患っている身として最後を迎えるための準備の参考になった。こんな風に進行していくのか。