塚本豊子『画廊と作家たち』を読む

 塚本豊子『画廊と作家たち』(新潮社図書編集室)を読む。長く東京小金井市で双ギャラリーを主宰していた塚本が、昨年同ギャラリーの閉廊にあたり、30数年前の吉祥寺での開廊から閉廊までの主な展覧会を振り返って記録している。

 初期には菅木志雄や森村泰昌李禹煥、関根伸夫などを取り上げた。塚本は以前、『画廊と日常』を発行している。そのためか本書では、開廊20周年記念展(2005年)あたり以降を紹介している。

 初めに多田正美、島州一、伊藤誠、吉澤美香、山田恵子など13人の個展が取り上げられる。続いてグループ展として、「20周年連続展」、「25周年展」、「予告篇」、「本篇」、「色(不基準=シルエット)」などが割合丁寧に紹介されている。

 優れた画廊だったろうことが推察できる。ただ私は一度も訪問したことがなかった。小金井市の住宅街の中にあり、少々アクセスが不便だったことが理由だった。

 画廊主が自分の企画したグループ展や個展の作家たちを紹介しているが、展示写真は決して多くない。難解な現代美術を短い文章で紹介しているが、それは分かりにくい。せめてモノクロであっても写真が豊富に使われていればより分かりやすかったのではないか。

 読んでいて何か不満なものを感じていた。それは当たり前だが、自分の企画した展示を紹介しているので、それらに対する批判がないことだ。自分の画廊の作家たちを批判することは難しいだろう。でも、その姿勢は自画自賛と見えてしまうのは仕方ないかもしれない。

 ひとつ面白いエピソードがあった。最初に菅木志雄と森村泰昌を取り上げたとき、二人と一緒に食事をしたことがあった。「菅は眼を合わせようともしなかった。気まずい空気が流れていたのを覚えている。(中略)彼にとっては自分の作品、思考する方法が、絶対であり、他の作家などに興味もないのである。ましてや森村の作品を肯定するなど、とんでもないことであろう」と。

 そういえば以前久が原に個人の主宰するガレリア・キマイラというユニークな画廊があったことを思い出した。江東区猿江にはオレゴンムーンギャラリーという元ガソリンスタンドを改造したギャラリーもあった。谷中墓地近くの現代美術専門の画廊は何て名前だったっけ?