白井聡『長期腐敗体制』(角川新書)を読む。これが実に面白かった。袖の惹句から、
なぜ、この国ではいつも頭(トップ)から腐っていくのか? そして、不正で、無能で、腐敗した政権が続いてしまっているのか? 実は、第二次安倍政権以降の状況は「体制」と呼ぶ方が的確だ。体制とはトップが変わっても権力構造が基本的に変わらない状態を指し、「政権」とは違う。歴史、経済、外交・安全保障、市民社会の各分野から、長期腐敗体制と化した要因を洗い出し、シニシズムを打ち破る術を模索する。
まず、2012年体制(第二次安倍政権)を外から脅かすもの、すなわち野党がなぜここまで弱体化したのかを少し考えてみましょう。(中略)
私の考えでは、保守二大政党制なるものはそもそも不可能だったということが、この民主党政権の挫折によって露呈したのです。それがなぜなのかを考えるためには、旧民主党政権の間に何が起ったのかをよく見る必要があります。
一口に民主党政権と言っても、鳩山政権とその次の菅・野田政権とは、根本的に違うのです。鳩山氏は、いわば既存の権力構造と衝突して敗れた。鳩山首相の辞任劇は、平成の政治史において、最大の事件だったと私は考えます。これについて、私は鳩山氏を責める気は起きません。逆に、鳩山氏は権力の構造と闘ってはっきりと負けることにより、何が真の問題として横たわっているのかを明らかにしてくれました。
これに対し、その後を継いだ菅氏・野田氏は、その露呈した権力構造に徹底的に屈従、屈服することによって自分の権力維持に汲々としていたにすぎません。鳩山氏と、彼と盟友関係にあった小沢一郎氏の試みが挫折したことの中にこそ、問題の本質が現れたと言えます。
自民党は「親米保守」という、ナショナリズムを標榜している。ナショナリズムに「親米」という外国の存在が刻印されているという立場は本来あり得ないものだ。ただしそれは、ソ連の強大さ、国際共産主義運動の脅威という状況を前提とすれば、一応正当化可能なものだった。しかし、ソ連の崩壊によって、この言い訳が使えなくなった。
対米従属の合理性を支えた最大の根拠が、東西対立の終焉によって消滅した。そのときどうするべきかは、一切想定されていなかった。なぜなら、「対米従属を通じた対米自立」は、いつの間にかその後半部が忘却されて、「対米従属を続けるための対米従属」という同語反復になってしまっていたからだ。これが戦後の国体の第三期=崩壊期であり、その時代を担う第三世代を代表するのが、安倍晋三だという。
自己目的化した対米従属という欺瞞、茶番、しかし戦後の全期間にわたって打ち固められてきた権力の構造に乗っかって権力者の地位をあたえられた面々――まさにその究極的な象徴が安倍晋三氏なのでしょうが――に、自らこの構造を壊すことはできない。いつの日か自立が実現することを想定していればこそ、対米従属も戦略として肯定できたわけですが、それができなくなった。そのとき、ここに残るのは、純粋な権力保持の欲望のみです。内的原理も正当性もない、ただひたすら既存の権力の構造を維持して、それによって自分の地位・権力・利権を保全したい。そのためには手段を択ばない。東西対立の終焉以降の状況で、自民党は純粋権力党の性格を色濃くしていきました。
さて、最終章で、なぜ、この体制が数々の失策と腐敗にもかかわらず維持されてきたのかが分析される。
2021年にアメリカの大学で教鞭をとる堀内勇作氏らのチームが実施した実験的調査が公表された。それによると、どの分野のどんな政策でも、「自民党の政策」として提示されると、大幅に支持が増えた。日米安保条約を廃止するという、きわめて人気の低い共産党の外交・安全保障政策でさえも、「自民党の政策」として提示されると、過半数の被験者から肯定的な評価を得た。
自民党の政策が支持を受けていないのに選挙をやれば勝つことの理由が、ここから見えてきます。政党の掲げる政策をほとんどロクに見ておらず、ただ何となく自民党に入れている有権者がかなり多くいる、あるいはそうした有権者が標準的な日本の有権者ではないのか、ということです。
小泉純一郎政権期に郵政民営化をめぐって流出した、広告会社作成の資料における「B層」(「IQが比較的低くかつ小泉構造改革を何となく支持する層」と定義された)という概念が日本の標準的な有権者のようである。なんともはや!