朝日新聞書評委員の「今年の3点」から

 朝日新聞年末恒例の書評委員19人の「今年の3点」が発表された(12月25日)。そこから、気になったものを拾ってみた。

 

犬塚元推薦

『批評の教室 チョウのように読み、ハチのように書く』(北村紗衣著、ちくま新書・902円)

本書は、どんな種類であれテクストや作品を論じるなら、読んでおきたい1冊。読む、分析する、書くの実践的ノウハウを学べる。語りは愉快で鋭い。私の研究する思想史学でも、難解な方法論をあれこれ読む前にまずは本書を薦めたい。

 

 

 

金原ひとみ推薦

『もう死んでいる十二人の女たちと』(パク・ソルメ著、斎藤真理子訳、白水社・2,200円)

それぞれとんでもない設定で度肝を抜かれる短篇集。誰もが言葉で伝える事を諦めていたものを、極限まで狂いなく表現しようとする著者の熱意と新年だけで、もう世界が変わる気がした。

 

 

 

須藤靖推薦

『実在とは何か 量子力学に残された究極の問い』(アダム・ベッカー著、吉田知世訳、筑摩書房・2750円)

量子コンピューターの実用化を見据えて、量子力学を使いこなせる人材の育成が国の将来を左右する急務になりつつある。一方で、量子力学が投げかける「実在とは何か」との根源的疑問は未解決のまま。本書は歴史的物理学者らが提案した異なる解釈に基づき、量子力学的世界観を紹介する。

 

 

 

トミヤマユキコ推薦

『東京の生活史』(岸政彦編、筑摩書房・4620円)

ちょっとしたことはネットで調べればすぐわかってしまう世の中で、本でなくては読めないことが書かれている本が、とても大切に思えた。本書はまさにそういう本。150人の人生を150人が聞いて書く。とにかく分厚い。東京で暮らす知らない誰かの人生を浴びるように読む愉悦があった。

『一度きりの大泉の話』(萩尾望都著、河出書房新社・1980円)

読んだ時の衝撃が今も忘れられない。少女マンガ界の見え方が変わる可能性のある1冊をどのように紹介するか、本当に腐心した。ちなみに、読んだ人たちと感想を言い合う機会がもっとも多かったのも、この本だった。

 

 ただ『東京の生活史』は、1200ページ以上もある。長時間これにかかりきりになってしまいそう。

 

 

 

宮地ゆう推薦

『老人支配国家 日本の危機』(エマニュエル・トッド著、文春新書・935円)

本書はトッドのここ数年の論考をまとめたもの。人口動態からソ連の崩壊や米国の危機を指摘した著者が、中国や米国の行方を読み解く。民主主義の失地回復は右派から起きるという指摘、民主主義が本来的に持つ排外性など示唆に富む。