『本の雑誌 7月号』は「特集 笑って許して誤植ザ・ワールド」という誤植特集だ。
編集者たちが様々な誤植、校正ミスの失敗談を披歴している。情報誌の会社に入った安藤さんは入社1年目、大相撲のチケット発売で特別電話予約の番号をミスしてしまう。印刷所の輪転機が回っている。対策会議が開かれ、副支社長が(その間違った)回線を引けばいいと言った。幸いその番号は空いていて、特別電話予約受付は無事終了した。
誤植といえば印象に残ったものが3つある。ひとつは思潮社の『現代詩文庫 長谷川龍生詩集』、1969年の第1刷りで、冒頭の「パウロウの鶴」の第2連がひどかった。行がでたらめに入り組んでいた。
ついで、45年ほど前の盆栽のつくり方の実用書で、図解で示してあった。根伏せという改作の方法で、根を掘りあげてそのくねった根の形の面白さを幹に仕立てる方法が紹介されていた。掘りあげた根の下部を土に植えるのだが、その本の図解は根を逆さまにして上部を土に植えてあった。これでは枯れるのが目に見えている。
さて、これは校正ミスになる前に編集者が気が付いて訂正した例。柳父章『翻訳の思想 自然とNATURE』(平凡社選書)1977年発行。柳父は明治維新以後使われている「自然」という言葉が、翻訳によってできたと言う。江戸までの「自然」という言葉はあるがままという意味だった。natureに天地自然の自然という訳語を与えた結果、今日使われる自然という言葉が生まれた。
だから本文中にしばしばnatureという単語が現れる。しかもドイツ語の例が引かれる。ドイツ語ではNatureとなるが、そのuの頭が砂消しのようなもので削られている。よく見ると「ü」元は「ウムラルト」が付いていたようなのだ。おそらく著者が間違っていたのだろう。それを編集者が気づかなかった。本が出来あがってからバイトを雇って100カ所か200カ所ある本文中のウムラルトを砂消しで全部消したのだろう。多分著者の印税はバイト代と相殺でマイナスになったのではないか。
私も長年編集者をしてきて校正も数多く経験してきた。致命的なミスはなかったと思っている。