山本弘の作品解説(96)「童(仮題)」

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 山本弘「童(仮題)」、油彩、F4号(24.3cm×33.5cm)
 1976年制作。山本弘46歳。最晩年の作品になる。仮題の童はキャンバスの裏面に誰かの手でそう書いてある。制作年と山本弘の署名は本人の手だ。しかし童が描かれていることは間違いない。戦後あたりの風俗か、普段着の着物を着た少女のように見える。左腕を下げ右腕をちょっと横に出している。左足はまっすぐで右足は少し動きがあるように見える。右側に向かって一歩を踏み出す瞬間だろうか。顔は乱暴に丸く描きなぐっているようにも見える。左右に塗られた青色がきれいだ。頭から左情報に伸びる白――山本得意の白がアクセントになっている。
 周辺は地色のままだが、頭や足は何色も塗り重ねている。山本は一見粗っぽい筆触を用いて写実と真逆の方法で、可愛らしい少女像を再現している。私はこれを寝室に飾っているのだが見飽きない。魅力的な1点だと思う。