「福岡伸一の動的平衡」で語られた獲得形質の遺伝

 朝日新聞に連載されている「福岡伸一動的平衡」というコラムに獲得形質の遺伝について書かれている(2019年8月8日朝刊)。最初に「獲得形質は遺伝しない」。これは現代生物学の基本的原則である。しかしこれが、だった、と過去形に書き換えられつつある。と書いている。
 線虫の一種が危険な緑膿菌を食べて死ぬ間際に卵を産み落とし、この卵から生まれた線虫は緑膿菌を危険とみなして回避した、という。福岡は書く。

 経験の伝達にはある種のRNA(リボ核酸)が関与しているらしい。親世代の獲得形質が、微小な情報粒子に乗って、生殖細胞に伝達されている。親世代の「獲得形質は遺伝する」のだ。まだわからないことは多いが、大きなパラダイム・シフトは起きる予感に満ちている。

 これが本当ならとても面白いのだが、福岡伸一はちょっと眉唾な一面があるから素直には聞きがたい。獲得形質の遺伝はともかく、定向進化の方がありうるのではないだろうか。現代進化論は定向進化を否定しているけれど。キリンの首が長くなり、馬の指が減っていったこと、それらを定向進化で説明する魅力を否定しがたい。
 福岡伸一は、また過剰にフェルメールに入れ込んでいる。個人の趣味といえば何でもいいが、有名人が声高に語ればそれなりに影響力があるだろう。茂木健一郎もウォーホルの巨大なモンローの作品に対して神の降臨だなどとオーバーなオマージュを捧げていた。いささか目に余ると言いたい。(もう言っているけど)。