半藤一利、塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』を読む

f:id:mmpolo:20190807161853j:plain

 半藤一利塚本やすし・絵『焼けあとのちかい』(大槻書店)を読む。半藤の書いた絵本、子ども向けの本、50ページ未満の薄い絵本に感動した。
 半藤は89年前に東京向島で生まれた。小学校5年生のとき、日本が英米と戦争を始めた。その後の具体的な戦況は語られない。物資が欠乏するようになり、動物園のライオンやゾウなど猛獣が殺され、町から若い男の人がいなくなり、人々から笑顔や笑い声が消えていった。母と弟たちが田舎へ疎開していき、半藤少年は父と二人残された。防空壕が作られ、そして3月10日の未明に突如B29の編隊が東京の下町を襲った。
 半藤少年は父と逃げ惑う。猛火に追い詰められ中川を渡る平井橋で行き場を失い、下を通りかかった船に拾われる。しかし、川の中の人を助けようとして川に引き込まれる。ようやく水の上に顔を出した半藤少年は別の舟に助けられる。空襲が襲ったときから船に助けられるまでの描写が迫真的で素晴らしい。あれから74年も経っているのにこの生々しい記憶は何だろう。それほどまでに強烈な体験だったのだろう。夜明けに家に帰りつくと家はあとかたもなく焼けてしまっていた。そこで父と再会する。半藤少年の顔は煤で真っ黒だ。
 その次の見開きページは茫然とした半藤少年の顔が大きく描かれ、言葉は何も書かれていない。次の見開きページに焼き尽くされた東京の航空写真を背景に東京空襲の概略が書かれている。334機のB29が飛来し、1670トンの焼夷弾を落とし、10万人以上の人が殺されたと。その5か月後にようやく戦争が終わった。
 途中、戦争が始まって2年後に半藤少年の家に小学校の同級生だった民ちゃんという女の子が訪ねてくる。工場で作ったという戦車のおもちゃをくれるという。半藤少年がおどけて「オー、サンキュー」というと民ちゃんは何とも言えない寂しそうな眼をした。「それは上の学校へ行けなかった悲しみのように感じられました」。その民ちゃんも空襲で亡くなった。
 最後の見開きページに89歳の半藤の顔と共に、大きな文字で「戦争だけは絶対にはじめてはいけない」と書かれている。
 塚本やすしの絵もとても良かった。

 

 

焼けあとのちかい

焼けあとのちかい