橋本治『ぼくたちの近代史』を読む

 橋本治『ぼくたちの近代史』(河出文庫)を読む。1987年11月15日に池袋の西武コミュニティ・カレッジで行なった6時間の講演を本にしたもの。講演は間に15分と1時間の2回の休憩を挟んで行ったものだという。午後2時から夜の9時まで一人でしゃべり続けたという。
 第1部で東大闘争を中心にしゃべっている。橋本は当時東大生だったが、学園紛争には加わらなかった。半ば外部から闘争について語っている。第2部は東大の学生時代と卒業してからの話。第3部で子ども時代の話をしている。子ども時代のことを話していて壇上で泣く。

(……)次の年になると、原っぱに子供がいなくなっちゃうんだよね。子供達どこにいるかっていうと、遊び場がないからさ、テッちゃんち行って『少年サンデー』読んでるとかっていう内部の遊びみたいな風に変わってきちゃってね、「ああ誰もいない……」っていうのが、なんか……(泣き声)、ちょっと、泣こう……感極まってしまった。

 「あとがき」で、

 要するに、この6時間の講演の眼目とは、“一人で論理を徹底させる近代自我なんかやだ――やだから泣いてやる”ということを、やってみせることにあったのである。

 なんて書いている。題名も羊頭狗肉だし、ぐじゃぐじゃどうでもいいことをしゃべっている。読み通すのもつらかったけど、会場で6時間聴いている聴衆もけっこうつらかったに違いない。講演の翌年、主婦の友社から単行本が出て、その4年後に河出書房新社から文庫になっている。3年後文庫版の2刷が発行されている。誰が買ったんだろう。