唐沢孝一『目からウロコの自然観察』を読む

 唐沢孝一『目からウロコの自然観察』(中公新書)を読む。これがとても良かった。全体を春、初夏、夏、秋、冬と5つの季節ごとに45のテーマを立てて、テーマごとに数ページずつあてて自然観察のポイントを手際よく紹介している。すべてカラーページで、小さいが適切なカラー写真が観察のポイントを示している。カラー写真と写真説明を読んでいるだけでも興味深い。
 45のテーマは、植物が18項目、昆虫が10項目、野鳥が13項目、爬虫類などが4項目となっている。一人の著者がこんなにも広い範囲を受け持って書いているのは珍しい。それが可能なのは、著者が長くNPO法人自然観察大学の学長を務めているからだ。自然観察大学は年に数回一般の人を集めて東京近郊で観察会を開き、シーズンオフには室内講習会を開いている。そのことはあちこちで行われているかもしれないが、唐沢が学長を務める自然観察大学は、他にはない大きな特徴がある。それは毎回多彩な講師が同行することだ。唐沢は野鳥が専門だが、ほかに植物、昆虫一般、クモ類、ハチ類、農業害虫、爬虫類などの専門家が参加している。唐沢は野鳥の専門家として観察会に同行するとともに、他の専門家の講義をも身近に接しているのだ。それがもう十数年続いている。
 春のカタクリの実生とか2年目のカタクリの葉とか、キバナキョウチクトウの花の基部に穴をあけ盗蜜するメジロとか、交尾中のオオカマキリの雌が雄の頭を食べ、その雌を別の雌が食べているなんて写真もある。日本に生息する4種のカマキリの卵のうの写真があり、その形で種類が分かる。植物のシモバシラの話題まである。アトリの大量飛来の写真は見事だ。著者はその数を約40万羽と推測したという。
 苦情を1点、本文をコート紙にして写真の再現を図っているが、コート紙と無線綴じの相性の問題かページが簡単に剥がれてしまった。
 これは些事ではあるが、「ナツヅタの紅葉と落葉」の項で、

 ナツヅタは葉身が1枚なので単葉である。ところが、葉が若いころには3枚の小葉に分かれた葉が見つかる。また、3枚のうちの2枚が合着していることもある。ナツヅタの葉は単葉でありながら、本来は複葉としての性質を持っていると考えられる(植物学的にはこのような葉を「単身複葉」という)。

 とあるが、私のナツヅタの盆栽の観察では、葉の数が少ない時に単葉になり、ふつうは3枚の小葉になるのではないかと思っている。少ない数の葉で十分な光合成を行うためにツタは単葉にして葉の面積を確保していると思われる。
 最後に自然観察の良い本が出版されたと思う。ぜひ手に取って見てほしい。


ツタの葉の形の違い(2017年5月21日)
ようやくシモバシラに霜柱が発生した(2015年2月15日)
NPO法人自然観察大学」
http://sizenkansatu.jp/