川端康成『たんぽぽ』を読む

 川端康成『たんぽぽ』(講談社文芸文庫)を読む。川端はほとんどを読んできたつもりでいたが、こんな作品があるなんて知らなかった。文庫本で183ページ、中編より少し長いくらいだが、未完である。雑誌に連載していたが亡くなったこと=自殺によって完成をみることなく終わった。
 奇妙な小説だ。恋人を精神病院に入院させた青年と入院した娘の母親が延々と会話を繰り広げる。娘の病気は「人体欠視症」とされていて、ときに恋人などの姿が見えなくなるという症状を表す。ところが川端は精神病院のことを気ちがい病院と書いている。お母さんも青年も会話のなかで入院患者たちを「気ちがいさん」などと呼んでいる。
 娘を病院に入院させて二人は帰途につくのだが、病院は寺の一角にあり病院では患者たちに鐘を突かせている。その鐘の音を聞いているうちに街でもう一泊して明日また娘を見舞うことにした。二人は宿をとって泊まる。ふすまを1枚隔てて布団に入るが、ふすま越しにいつまでも会話を続ける。
 会話が途切れたあたりで青年は娘との会話を思い出す。そこから以前の娘との会話になっていく。抱かれているとき青年の姿が見えなくなっていく。「ああっ、見えない。久野さんが見えない。」と口走って・・・。
 そんなところで未完で終わっている。川端の養子の川端香男里の覚書によると、小説はやっと布陣を終えたか終えないかのところであり、川端担当の新潮社の編集者の証言によっても、既発表分を大幅に書き直し、これからストーリイを発展させるつもりであったことがうかがえるとある。
 であればこそ、ここまでの分を取り上げて云々しても始まらないことになる。だが変な小説であるとの印象は動かしがたい。いったいこれからどんなふうに展開させるつもりだったのだろう。小説はほとんど動いていないのに180ページを超えている。もやもやしたまま読み終えたのだった。


たんぽぽ (講談社文芸文庫)

たんぽぽ (講談社文芸文庫)