栽培植物の特性

 ベランダの片隅に置いてある播種床に見慣れない植物の芽が生えていた。播種床といえば物々しいが、種まき専用の植木鉢で、気になった種を適当に播いておくのに使っている。去年の秋にもお茶の水の歩道で拾ってきたトチノキの実を播いておいた。
 その播種床に生えてきたのは双葉では分からなかったが、本葉になってみればツタだった。はて、ツタを播種したのはいつだったか? 外苑前あたりの塀を覆うように繁っていたツタの実を採ってきて、この植木鉢に播種したのは何年も前になる。その翌年だったか翌々年だったかに芽が出て、鉢に上げたのがさらにその1年後くらい、今は鉛筆より太いくらいの幹になって、去年から花を付けている。その同じ時に播種した実が何年も経って今年芽が出てきたということだろう。
 栽培種と異なり野生種では種が落ちても翌年一斉に発芽することはない。発芽した年の気候が悪ければ育たないかもしれない。だから野生種は何年もだらだらと発芽してくる。それは自然の保険なのだ。それに対して栽培種では一斉に発芽するように(栽培種化の過程で)選別されている。去年大根を播いた畑に今年人参を播いたとき、大根と人参が混ざって生えてきては困るのだ。これを栽培種では発芽が斉一化されているという。種の入っている袋には出芽率××%と印刷されている。これは翌年の出芽率なのだ。
 もう一つの特徴は、栽培種では完熟した種が脱落しないでいつまでも枝に着いているように選別されていることだ。野生種のように完熟した種がすぐ脱落しては収穫に差し障りがある。そのほか、栽培種では多収であること、実が大きいこと、食味が良いことなども選別されている。それらは想像すれば分かることだが、上記の発芽の斉一化と完熟した種が脱落しないことは、ちょっと気づきにくいのではないだろうか。
 ベランダの播種床に数年の間隔を置いてツタが芽生えてきたのだった。