中沢潮のエスキースを見てほしい

 東京京橋のギャラリー川船で「60〜70年代 現代美術 俯瞰展」が開かれている(5月2日まで)。そこに中沢潮のエスキース(下絵)が展示されている。もともと発表を目的としたものではないエスキースなのでとても地味な作品だ。ところがこれは極めて重要な作品なのだ。

 作品のタイトルは「読売アンデパンダンの習作」(1962年)、副題が「東京都美術館側から展示作品の撤去という憂き目にあう」と書かれている。今回の展覧会のパンフレットにある作家の紹介を見ると、

 中沢潮は1932年生まれ、時間派。
 1962年の読売アンデパンダンに出品。観客が白布の上を歩くと下のビニール袋がやぶれ染料が広がる作品で美術館側から撤去された。その年に美術評論家瀧口修造中原佑介と研究会を開き時間派を立ちあげる。人は変化のなかに生きているという認識を前提にして、時間的な要素を取り入れた作品が数多くある。

 ついでエスキースを見ると、左奥に人が立っていて、その前に通路のような道状のものが描かれている。その右側に歩く人が描かれ。その人の足下の床に断面図で何層かがあるように描かれている。上の面から線が伸びて、「エノグの上に白布を張る 人が歩るくとエノグなどが白布にしみ出てくる。」と書かれ、一番下の層からも線が出て、「都美術館の床」と書かれている。中間の層については、「染料、エノグなどを床の上にランダムに置く」と書かれている。また、その下に丸で囲んだ中に、「材料/白コットン/絵具、染料/ビニール」とある。
 中沢と親しい柴田和によると、これは美術館に展示する前に設計図のように描いたもので、展示した直後に中沢の作品が床面を汚すことを理由に美術館側が作家に断ることなく勝手に撤去したという。そのため作品の写真など正式な記録はないようだ。
 中沢潮の読売アンデパンダンでの作品撤去のことは伝説的に語られている現代美術の歴史に残る出来事だ。しかし、その詳細な記録はなかったと思う。今回の展示でそれが初めて公開された。その意味はとても大きいと思われる。
 「60〜70年代 現代美術 俯瞰展」と銘打たれたとおり、大御所の作品が並べられている。しかし作品の意味の大きさからいけば、この中沢の小さなエスキースが一番ではないだろうか。地味な画面ながら、美術史の一コマがここに再現されている。
 ※本日(29日)は祝日のため休廊
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「60〜70年代 現代美術 俯瞰展」
2015年4月20日(月)〜5月2日(土)
11:00〜19:00(日曜・祝日休廊、最終日17:00まで)
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ギャラリー川船
東京都中央区京橋3-3-4 フジビルB1
電話03-3245-8600
http://www.kawafune.jp/