小林雅一『AIの衝撃』(講談社現代新書)がとてもおもしろい。副題が「人工知能は人類の敵か」という少々過激なもの。最近、電王将棋でプロ棋士たちがコンピューターの将棋ソフトに負け続けている。その将棋ソフトが強くなったのはたくさんのデータから機械が自分で学んでいく方法によっている。ビッグデータを解析して、そこから何らかのパターン(規則性や法則性)を自力で導き出す「機械学習」の成果なのだ。AI(人工知能)が進化している。
日本では産業用ロボットの開発が盛んで、世界の産業用ロボット市場で50%のシェアを持っている。しかし日本が開発してきた産業用ロボットは、人間が操作する単機能ロボットだ。ところが現在グーグルやIBM、マイクロソフトなどが開発を進めているロボットは、AIを搭載して自律的に動く汎用ロボットなのだ。日本ではこの分野での研究開発が遅れている。
そのAIの発達によって、人間の職業が奪われるという予測が指摘されている。職業によっては完全に機械にとって代わられる分野がでてくる。レジ係や料理人、金融機関の窓口係や融資担当者、運転手、介護士、簿記・会計監査などが上げられている。
次世代ロボットは次世代情報端末ともなる。日常生活に浸透した家事ロボットやウエラブル端末等々は、クラウド型AIを搭載している。そのためIT企業はこれらの端末を通じて大量の日常データを吸いあげることができ、そのビッグデータを解析することによって、ユーザーの嗜好や行動を管理することができるようになる。
さて、これら進化したAIはやがて人間以上の知恵を獲得して、人間を凌駕することはないのだろうか。人間のコントロールが及ばない事態は考えられないのだろうか。それに対して著者は楽観的であるように見える。
……それは「知能」が人間に残された最後の砦ではないからです。それを上回る「何者か」を私たち人間は持っているのです。
それは、ある能力において自分よりもすぐれた存在を創造し、それを受け入れる私たちの先見性と懐の深さです。蒸気機関からコンピュータ、そして産業用ロボットまで、私たち人間はあえて自らの雇用や居場所を犠牲にしてまで、人類全体の生存と繁栄を促す新たな技術を開発し、それを受け入れてきました。これは単なる「知能」という言葉では表現しきれないほど大きな「何か」です。このように将来を見据えることのできる叡智と包容力こそが、私たち人間に残された最後の砦なのです。
クリストフ・コッホが『意識をめぐる冒険』(岩波書店)で、「〈相互作用する部分から成り立つシステムであれば、ある程度の意識を持つ〉という法則が、この宇宙を支配していることになる。システムの規模が大きくなればなるほど、また高度にネットワーク化されればされるほど、意識の程度はより大きく、より洗練されたものになる」と言っている。そして、
脳が意識を生み出す決定的な要因は、脳を構成する物質の特殊性にあるのではない。そうではなく、システムの構成要素どうしが、どのようにお互いつながりあっていて、どのような影響を与えあうか、という構造のレベルでの特異性こそが、脳が意識を生み出すようになっている根本原因なのだ。「意識は、それを成立させる物質の性質に依存しない」とも言える。生物学者やエンジニアは、機能主義の考え方のもとに、数々の自然現象に原理的な説明を与えたり、また自然の仕組みを模倣したりすることに、大きな成功を収めてきた。意識のメカニズムを考える際にも、機能主義の考え方は役に立つと私は考えている。
さらに、
(……)ワールドウェブには既に意識があると言えないだろうか? どのような証拠があれば、ウェブが意識をもつと言えるだろうか? 近い将来にウェブが目覚めて、その自律性によって私たちを驚かすことは果たしてあるだろうか? (中略)
統合情報理論は、意識は宇宙の基本的な特性であると考える汎心論の進化形であると言える。汎心論とは、「単純な要素どうしが複雑に組み合わさったときに、突然、意識が創発的に出現することはありえない」という考え方だ。〈すべてのものには、ある程度の意識がある〉という汎心論の考え方は、その簡潔性、単純さ、論理的一貫性から見て、大いに魅力的だ。意識の精神世界が存在することを認め、意識を生み出す物質の世界の原理と意識の世界の原理は異なるのだと考えるならば、宇宙全体のあちこちに、何らかの意識が存在していても少しもおかしくない。私たちの周りには、何らかの意識をもったシステムが充満しているのだ。意識は、私たちが吸い込む空気中に含まれ、踏みつける土のなかに存在し、腸内細菌が持ち、私たちの思考を可能とする脳のなかに存在するのだ。
これはロボットが意識を持つことを示唆している。意識を持ったロボットはやがて自立して、人間とは異なった価値観を持つようになるのではないか。小林雅一が楽観的に思えるのはこんな訳からなのだ。
・クリストフ・コッホ『意識をめぐる冒険』を読む(2014年10月12日)
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