『ナイフと斧の使い方』がおもしろい

 ローリー・イネステーラー『ナイフと斧の使い方』(クロスロード)を読む。これがおもしろかった。本書は「父が子に教えるフィールド技術」シリーズの1冊らしい。著者はカナダ生まれ、探検家の父と共にアラスカで少年時代を過ごすとある。1968年に来日して以来日本で過ごしているらしい。本書も訳者が記載されていないので、直接日本語で書いているのだろう。
 絵本の体裁なので子供向けらしい。大型本で48ページ、オールカラーで写真がたくさん使われている。「ナイフの使い方」と「斧の使い方」の2部構成。子供向けの本とはいえ、日本ではナイフも斧もその基本的な使い方など誰も教えてくれないので、新鮮で有意義な読書だった。
 ナイフ編では種類から始まって基本的な使い方が解説され、さすがカナダで、屋外での獲物の解体として、魚と鳥の解体が具体的に紹介される。鳥の解体ではまず羽をむしる。足の筋を取り出したり、全身にロウをかけてピンフェザーを取り除くなど、本格的だ。
 斧編では、使い方として立木を切り倒す、丸太を切る、枝を払う、薪を割るなどとあり、ついで持ち方、置き方、研ぎ等が説明されるが、一番印象に残ったのが「置き方」だった。「置き場所を決める」と小見出しが付けられ、写真があって解説が書いてある。ここでは略したが漢字にはすべてルビが振られている。すると、本書は小学生以上に分類されるのか。

 数日間にわたってキャンプをする場合、必ず斧は作業する場所、それも誰が見てもすぐにわかるような位置に置くようにして下さい。ただし、地面の上に寝かして置くと、うっかり刃に足をぶつけてケガをすることがあるので危険です。丸太につき立てておくのが、一番安全な方法です。(後略)

 斧を置くときは足をぶつけてケガをしないように、丸太につき立てておくなんて、日常生活に斧がない日本人には気づかない文化ではないか。25年前に初めてこの本を読んだのだったが、このことだけをはっきりと憶えていた。
 もう30年以上前になるが、男のナイフなんていうのがちょっとしたブームになり、雑誌に特集されたことがあった。ナイフを持っていると、まあアウトドアではという前提なのだが、ずいぶん便利だと煽っていた。私も流行に弱くて日本橋の木屋でナイフを1本手に入れた。アメリカのガーバー社製の軽いナイフで(木屋で重さを量ってもらって、一番軽いナイフにした)、本書で見るとブレード(刃)が折れてハンドルに収納されるフォールディングナイフに分類されるらしい。
 日常的に持ち歩いていたが、20年間で実際に役にに立ったのが2回だけだった。会社の部下たちと山梨県の石和に桃の写真を撮りに行ったとき、山道で会った農婦のおばさんがたくさん桃をくれた。近くに川や水道がなく、桃の毛を取るためにナイフを使って皮を剥いた。(以後、出張に持っていくため会社でナイフを購入した)。もう一度は、神田を歩いているときに、タバコ屋の前の柿の木の枝にびっしりとツノロウムシというカイガラムシが群生しているのを見つけ、タバコ屋のおばさんに断ってナイフで枝を切ってきた。ツノロウムシは会社へ持ち帰って撮影し、図鑑などに使うストックフォトに加えた。
 飛行機に乗ったときにはナイフがX線の検査に引っ掛かり、取り上げられて機長預かりにされてしまった。空港へ着陸して係員に預かり証を渡したらじっと考え込んでいる。預かり証と引き替えにすぐナイフを返しますと言われていたのに、こいつはバカかと思って、一緒に預かり証を覗き込んだらそれは昨夜泊まったホテルの領収証だった。バカは私だった。
 10年ほど前だったか、画家で美術評論家の門田さんに常時ナイフを携行していると話したら、自衛のため? と聞かれてしまった。初めてそれが一般的な認識だと知って、翌日から携行するのをやめたのだった。現在はキーホルダー並に小さなヴィクトリノックスの十徳ナイフを持ち歩いている。


ナイフと斧の使い方―父が子に教えるフィールド技術

ナイフと斧の使い方―父が子に教えるフィールド技術