東京銀座の資生堂ギャラリーで飯嶋桃代展が開かれている(3月1日まで)。これは第9回shiseido art eggという公募制のプログラムだ。今年は340件の応募があり、その中から選ばれた3人が個展形式で発表している、飯嶋はその2人めだ。
飯嶋は1982年、神奈川県生まれ。2006年に女子美術大学美術学科立体アート専攻を卒業。2008年に同大学大学院修士課程美術専攻立体芸術研究領域を修了し、2011年に同大学大学院博士後期課程美術専攻立体芸術研究分野を修了している。
2006年に銀座のpepper's galleryで初個展、以後ギャルリー東京ユマニテ、銀座gallery女子美、マキイマサルファインアーツ、コバヤシ画廊、ギャラリーαMなどで個展を開いている。
飯嶋は今までパラフィンワックスを使ったり、フェイクファーのコートを作ったり、たくさんのボタンを使ったインスタレーションを行ったりしてきた。今回はパラフィンワックスで作った家型の立体と、新しい試みであるご飯茶碗を使ったインスタレーションを展示している。
まず高さ数10センチもあるパラフィンワックス=蝋で作った家型の立体であるが、そこには数多くの食器が埋め込まれている。タイトルを《開封のイエ−−Fragments of glacier−−》という。これは大きな型枠を作り、その中に使われた食器を詰め込んでパラフィンを流し込み、固まったところで7角形の形に切り取っているという。表面には切り取られた食器の断面が見えている。実際に使用された食器を使うことによって「家族の歴史」が埋め込まれた立体だ。
第2回shiseido art eggでグランプリを受賞した窪田美樹の作品に、キャスターの付いた家具をモルタルで固め、その表面にポテトチップスを塗り込み、一緒にグラインダーで研ぎ出した作品があった。飯嶋にそれを知っているか問うと知らないという答えだった。方法が似ているがコンセプトが異なっている。
窪田がshiseido art eggで発表した作品は、中古のベッドや鏡台などの家具をスライスして立体作品に組み立てたものだった。また何回目かのshiseido art eggでグランプリを受賞した平野薫も古着を解いて、それで網状のドレスというかテントのようなものを作っていた。塩田千春は東ドイツの集合住宅で使われていた実用一点張りのような数多くの窓枠を組み立てたインスタレーションを展示していた。それらに共通するのは、生活の歴史の作品への内在化といったようなものだ。飯嶋も窪田も平野も、もちろん塩田も優れた仕事を見せてくれている。
今回の飯嶋のもう一つの作品は、ご飯茶碗の底に文字を彫ったもので、それに下からライトを当てて、暗い中に文字を浮き上がらせている。そこには「Singular(s)」という文字が読み取れる。タイトルを《Singular(s)−−光/水 器をみたすもの−−》という。飯嶋のテキストより、
(前略)
Singulars−−光を宿す水面のさざめき。かけらのイエのかけらたち。
さざめきは器たちを覆う、かつてシンクを満たしていた水のように。
光と水の微粒子が行き交うほのあかりのなかに、たちあらわれる(かもしれない)あらたな共同性。
異郷化する世界における「共同体なき共同性」。
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昔の詩人が、こうしるしていた。「器の中の水が揺れないやうに、器を持ち運ぶことは大切なのだ」、と。
私は飯嶋の初個展以来ほとんどの展示を見てきた。追いかけて見るに価する優れた美術家だと思う。以前、ブログに紹介した記事は下記のとおり。
・ギャラリーαMの飯嶋桃代展を見る(2014年6月17日)
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第9回shiseido art egg 飯嶋桃代展
2015年2月6日(金)−3月1日(日)
11:00−19:00(日・祝11:00−18:00)月曜休み
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資生堂ギャラリー
東京都中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階
電話03-3572-3901
http://www.shiseidogroup.jp/gallery/
※銀座8丁目中央通り 三菱東京UFJ銀行正面