東京都庭園美術館で内藤礼展「信の感情」を見る


 東京都庭園美術館がリニューアルオープンし、内藤礼展「信の感情」が開かれた(12月25日まで)。庭園美術館には新しくギャラリーが作られて、内藤のタブローが十数点展示され、そのほか旧浅香宮邸の雅な各部屋のあちこちに内藤の作った小さな木彫作品が置かれている。小さな木彫作品というのは、展覧会のパンフレットの写真にある高さ数センチほどの人形で、丸い頭には細い眼が描かれている。それが鏡の前やガラス窓の前などにひっそりと置かれている。
 ギャラリーに展示されているタブローはほとんど真っ白で、何も描かれていないように見える。しかしそれはアクリル絵の具をわずかだけ水に溶かし何度も重ねたもので、色彩の始まりを表現したものだという。見つめているとふとした瞬間に色彩が浮かび上がるという。
 内藤はいつも自己の内面を見つめてそれを作品にしている。内藤が関心を持つのはただ自己だけだ。自己の外、他者とか社会には一切関心がないように見える。2008年に東京都現代美術館で行われた「Parallel Worlds」という企画に内藤も出品し、講堂で茂木健一郎との対談があった。そのとき内藤は「若い頃は自分がいるんだろうかと疑問だった。30代半ば、他人がいることに気づいた驚き」と言って聞いている者を唖然とさせた。内藤の作品はおそらく彼女の内面を掘り下げたものなのだろう。しかしほとんど自閉的に行われているのだろう彼女の内面との対話に、私たちは作家と同じように強い関心を持つことはできない。
 白いタブローはほとんど裸の王様を連想させる。小さな木彫の人形に対しても同じ感想を抱かざるを得ない。今回タブローからも木彫の人形からも何の感興も湧かなかった。
 今まで何度も内藤礼の作品を見てきたが、前々回の横浜トリエンナーレでの三渓園に設置された「気配」という作品のほかは、私には評価することができない。神奈川県立美術館鎌倉館での個展も感心しなかった。内藤を評価する人たちはいったいどのように見ているのだろう。