あこがれの草ボケの酒

 画家の山口晃東京大学出版会のPR誌『UP』に漫画「すゞしろ日記」を連載している。雑誌は月刊誌で連載はこの11月号で116回になる。てことはもう9年を超えているのだ! 雑誌がA5判と小さいのに、その1ページを24コマに割っている。まとめた単行本も羽鳥書店からすでに2冊刊行されている。さすがにそれはB5判と大きいけれど。

 今回は山梨県富士吉田市へ行った話。山口が富士山信仰に絡めた富士山の絵を依頼されてその取材とある。宿へ着き関係者で夕食会となった。そのメニューが紹介されている。ジャガ芋とヒジキの煮もの、ちりめん山椒に竹の子煮、カボチャの酢のもの、はなまめ、ぶりの煮つけ、さしみとエビフライ、酒は一升瓶入りワイン「ルバイヤート」(まとも!! とコメントしている)、自家製薬用酒がシンドメ酒と五味子酒とある。

 さて問題はこのシンドメ酒で、中に草ボケの実が入っているという。これはボケ酒だ。だがボケの実ではなく、草ボケの実が使われている。私もときどきボケ酒を作っているがすべてボケの実だ。まだ一度も草ボケの実を使ったことがない。果実酒の本によると、ボケより草ボケの方がおいしい酒ができるという。草ボケは長年あこがれの実なのだ。
 ときどきボケ酒を作っていると書いたが、ボケの実はときどきしか手に入らない。ほぼ3年に1回くらいか。果樹特有の生り年がボケには顕著にあるようだ。今年が豊作だと、その後2〜3年はほとんど実をつけない。だいたいボケの木そのものがあまりないし、栽培している農家はゼロだろう。昔、神田にある老舗の果物屋、江戸時代から続くという「万惣」に探しに行ったがなかった。それで改めてボケの実の入手を頼んだら翌年手に入りましたと電話があった。かなり高価だった。ボケにしてこれだから、草ボケなんか図鑑や写真で見ただけでまだ実物にお目にかかったことがない。その草ボケの酒を山口さん飲んだんだ。ちょっと羨ましい。
 ちょっと羨ましいと書いたが、実は飲むことにあこがれているのではなく、作ることが好きなのだ。だから古いボケ酒も飲まないで残っている。今年もボケは手に入らなかった。団地の植え込みのボケに珍しくたくさんの実が生ったのだったが、おそらくクソガキどもが悪戯して青いうちにほとんど採られてしまった。銀座の道路わきに植えられているボケも実は1個しか着かなかった。まあ、来年に期待しよう。


山口晃『すゞしろ日記 弐』が楽しい(2014年1月29日)
山口晃「すゞしろ日記」発行される(2009年8月6日)