蜷川幸雄の憂い、教養がない俳優たち

 朝日新聞夕刊に連載の蜷川幸雄のエッセイ「演出家の独り言」の11月7日のタイトルは「イケメン俳優人気への憂い」というものだった。

 かっこいい若者たちの、いわゆるイケメン俳優たちの演劇が、女の子たちに評判がよくて、大勢の観客を集めているというので、ぼくもちょっと演出してみようと思って、イケメン俳優たちを集めてもらった。(中略)
 ほとんど同じ顔をして、同じ髪型をした若者たちが出演した。不思議なことにみんな似ているのだ。顔をちょっといじったような若者の行列だ。
 なんだこれは!
 このサイボーグのような、マネキンのような若者たちは、みんな真面目で、稽古熱心だ。しかし、まったくといっていいほど教養がない。漫画とテレビは見るが、ほとんど本は読まない。知らないことを恥ずかしいことだとは思っていない。チェーホフだって、シェークスピアだって、三島由紀夫だって読んだことがない。凄い。(後略)

 これを読んで、5年近く前、雑誌『BRUTUS』2010年2月15日号に掲載されていたAKB48のメンバーの会話を思い出した。

 前田敦子  あっ、あとは悩みといえば漢字が読めないこと(笑)。学生時代をほとんどAKB48に費やしているから学校の勉強をちゃんとできてないと思う。
 秋元才加  私たちは高3からAKB48に入ったのでまだいいけど、あっちゃんたちは、中3くらいからだもんね。
 大島優子  本当に心配になるよ。
 前田  台本の漢字が読めないときは、調べるのに必死だよ(笑)。
 高橋みなみ  でも、しょうがないよ。生きている限り、悩みはあるでしょ。

 高橋みなみが、問題を一般論化して済ませている。いいのかなあ。
 もう一つ思い出したのが、スタジオライフ公演『トーマの心臓』だ。今年の5月に新宿紀伊國屋ホールで見た。萩尾望都原作のBL(ボーイズ・ラブ)少女マンガを倉田淳が脚本・演出している。俳優が全員ジャニーズ系の男優だ。招待券をもらったので見たのだが、観客のほとんどは女性だった。宝塚の男性版かと思って見ていたが、あの俳優たち、みな教養がなさそうだった? またドラマツルギー=作劇術がとても分かりやすく、展開に飛躍が全くなかった。時間の経過もスライドで丁寧に表示される。観客も教養がないのか? それとも、あれはブレヒトの方法を採用しているのか? 父さん、自分がブサメンなので焼いているんじゃない? 娘よ、ブサメンブサメン言うなよ。もう何とか思う年齢じゃないけど、言われて嬉しかないぜ。父さん、だったら、あの俳優さんたちや観客の人たちも一緒じゃない?