オースン・スコット・カード/金子浩・金子司・山田和子『無伴奏ソナタ 新訳版』(ハヤカワ文庫SF)を読む。1981年にアメリカで発行された新しいSFの短篇集。成井豊が解説で絶賛している。
(……)1985年。大学を卒業して、高校教師になって2年目、僕はハヤカワ文庫の新刊の『無伴奏ソナタ』に出会った……。
この時の衝撃を表現するのは難しい。
「エンダーのゲーム」のスリリングなストーリー展開にハラハラドキドキし、「王の食肉」の設定の残酷さに胸をえぐられ、「深呼吸」の発想の斬新さに驚愕し……。次から次へと呆れるほどおもしろい話ばかり。挙げ句の果てが、ラストの「無伴奏ソナタ」。僕はSFを読んで生まれて初めて泣いた。
当時の僕は24歳。生意気盛りで、お涙頂戴の人情噺など大嫌いだった。SFを読むのは知的な興奮を味わいたいから。感動したいとか泣きたいとか、考えたこともなかった。その僕が感動した。泣いた。「無伴奏ソナタ」には人間の真実が描かれていた。SFにはこんな凄いことができるのか。それは僕にとって、大いなる発見だった。
本書冒頭の「エンダーのゲーム」を読み始めてすぐに、ああ、つまらないものを読むことになってしまったと悔いた。どんな本も読み始めたら最後まで読み終わると決めているので途中でやめるわけにはいかないのだ。「王の食肉」も「深呼吸」も「無伴奏ソナタ」も半ば苦痛を感じながら読んだのだった。
解説を書いている成井が本書に接した年齢の3倍弱という馬齢を重ねている私には、すべて思いつきの典型的なアメリカSFとしか思えなかった。私は根っからのスタニスワフ・レム教徒なので、この類のSFは受け付けることができない。成井さん、あんまり人生経験も読書体験もないんじゃないかなあと秘かにおちょくってしまう。
スタニスワフ・レムはウルトラ・ハードSFで、大森望が絶賛しているのだ。大森はレムをグレッグ・イーガンに比べて、「レム的思考を現代に受け継ぐのがイーガンだけど、さすがに貫禄ではレムにかなわないかも。」「これ(レムの『天の声』)に比べりゃ、『ディアスポラ』なんて綿アメですよ。」とまで言っている。さらに大森は言う。
要するにレムは、どんなくだらないことでも"ちゃんと考える"人なので、考えてないものはめちゃくちゃ罵倒する。SFは可能性を秘めているが、SFファンは莫迦ばっかりでろくに世界文学も読んでないから新しい価値を理解できず、SFに革命的な変化が起きる確率は低いだろう(本書収録の「SFの構造分析」の結論を勝手に要約)みたいな嫌味もそこから導かれてくるわけで、まあ、たいへんなおっさんですわ。きみ、頭よすぎ。
ここで「本書」と言っているのは、国書刊行会《スタニスワフ・レム コレクション》第2弾、『高い城・文学エッセイ』(沼野充義ほか訳)のこと。
大森望のレム評は『21世紀SF1000』(ハヤカワ文庫)から引用した。
・大森望『21世紀SF1000』のスタニスワフ・レム評(2013年1月7日)
無伴奏ソナタ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF カ 1-26)
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