20世紀最後の巨匠 バルテュス展を見る


 東京都美術館で「称賛と誤解だらけの、20世紀最後の巨匠」と銘打たれたバルテュス展を見る(6月22日まで)。展覧会のちらしの「バルテュスとは何ものか?」から引用する。

ピカソをして「20世紀の最後の巨匠」と言わしめた画家バルテュス(本名バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラ、1908-2001)は、美術史家であったポーランド人の父と画家の母のもと、1908年にパリで生まれました。独学ではあるものの、初期イタリア・ルネサンスからフランス写実主義に至るヨーロッパ絵画の伝統に触れながら、20世紀美術の流派のどれにも属することなく、独特の具象絵画の世界を築き上げていきました。バルテュス曰く「この上なく完璧な美の象徴である」少女を、生涯にわたり描き続けたことで知られています。観る者を挑発するかのような少女像、危うい均衡の上に成り立つどこか神秘的で緊張感に満ちた作品は、フランス知識人の熱烈な支持を受ける一方、扇情的なポーズを取る少女というモティーフのゆえに批判や誤解にもさらされてきました。今なお議論のつきない、20世紀美術において最も重要かつ特異な位置を占める画家の一人です。

 最初にまず本展を企画してくれた主催者(都美術館、NHK朝日新聞社)に感謝したい。図版でのみ見ていたバルテュスの特異な作品の実物をまとめて大量に見られたことはとても有意義だった。作品の大きさ、マチエールなどは実物を見ないとわからない。

 バルテュスは独学と紹介されているとおり、正規の美術教育を受けていない。そのためアンリ・ルソーフランシス・ベーコン同様に正統的ヨーロッパ絵画に共通する正確なデッサンに欠けている。ピカソなどキュビスムの技法で描かれている歪んだ人物像は基本にしっかりしたデッサンの技術が感じられるが、バルテュスたちにはそれがない。それがないからと否定されることはない。そのことは画家のひとつの特徴だろう。むしろバルテュスの作品にとって歪みこそ魅力になっている。皆が正統的ヨーロッパ絵画を踏襲する必要はないのだ。デッサンの基本がないからといって、誰も浮世絵を批判しないだろう。
 ついで、バルテュスの大きな個性は少女の危ういヌードを描いたことだろう。そのスキャンダル性が正にバルテュスをして20世紀最後の巨匠とされているに違いない。だがスキャンダルの要素を除いてしまえば、バルテュスの仕事は決して「巨匠」の名には相応しくないだろう。まさか凡庸とはいわないが、マイナー・ポエットに分類されるのが妥当ではないだろうか。20世紀絵画の傍流という位置づけが適切なのではないか。
 ここで傍流というのは、新しい美術の流れを創り出すことに無関係だった美術家を形容する定義のつもりで言っている。バルテュスに敬意を表して「偉大なる傍流」と言ってもいいだろう。同じ形容を付される日本の画家としては誰よりも吉仲太造を思い出す。
 さて、このバルテュスがエロティックな小説『ロベルトは今夜』を書いた作家ピエール・クロソウスキーの弟だと知って驚いた。兄弟が二人とも性的な主題を大きな関心にすることで共通している。
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バルテュス展「称賛と誤解だらけの、20世紀最後の巨匠」
2014年4月19日(土)→6月22日(日)
9:30〜17:30(金曜日は20;00まで)月曜日休館
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東京都美術館
東京都台東区上野公園8-36
ハローダイヤル03-5777-8600
http://balthus2014.jp