フィリップ・K・ディック『時は乱れて』を読む

 フィリップ・K・ディック『時は乱れて』(ハヤカワ文庫SF)を読む。本書は30年以上前にサンリオSF文庫として刊行されて、その後サンリオが同文庫を廃刊にして本書も絶版となっていた。これは同じ訳者による改訳決定版とのこと。
 ディックは本書を2週間で書きあげ、2度改稿してできあがったという。ディック得意の「模造記憶」がテーマだ。模造記憶は作られた記憶で、映画『トータル・リコール』の原作となった短篇「追憶売ります」が典型的だろう。
 2週間で書きあげたという割りにはよく出来ているとも言えるし、早書きゆえの書き込みが足りないと思われる点が気にはなるとも言えるが、それでも十分楽しめた。さすがディックだ。『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』(映画『ブレードランナー』の原作)や『流れよわが涙、と警官は言った』という忘れがたい作品の著者なのだ。
 これは1959年に書かれている。描かれている世界は1997年だ。執筆時からは40年弱の未来だったが、その年を現在17年も過ぎている。描かれた未来がすでに過去の世界なのだ。ただテーマが未来世界を描くことではないので、それほど違和感はない。
 アメリカのSFをあまり評価しないのだが、ディックやカート・ヴォネガット(ジュニア)あたりを好きで読んできた。本棚にあるSFではスタニスワフ・レムに次いでディックとストロガツキイが多い。とは言うものの、いずれも一桁に過ぎないが。まあSFそのものの良い読者ではなかったのだから、あまり偉そうなことは言えない。



時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)

時は乱れて (ハヤカワ文庫SF)

時は乱れて (サンリオSF文庫)

時は乱れて (サンリオSF文庫)