山本弘の作品解説(42)「ほこら(仮題)」


 山本弘「ほこら(仮題)」油彩、F6号(41.0cm×31.8cm)
 1977年制作。画面中央に小さな家が描かれている。家というには小さくて、小屋みたいだ。いや、もっと小さいのかもしれない。寂れた街道脇に古くから置かれている忘れられた小祠のようだ。その周囲を緑の夏の灌木が取り巻いている。まさに藪に埋もれているようだ。木立の中からは蝉のかまびすしい声が聞こえている。その崩れそうな小祠が山本の手に掛かると輝き始める。ぐだぐだのアル中のどうしようもない画家が、実はヒカリゴケに似て秘かに輝いているように。技法は水墨画に使われる渇筆に似ている。サインまで同じ技法で描かれている。
 1977年制作とあるから、同じ年の飯田市公民館の個展で発表されたのだろう。その後、1978年に最後の個展をして、1980年にアル中治療のため入院し、翌年亡くなっている。だから最晩年の作品だ。荒っぽい筆触だけで絵画が成立している。いつもながら見事な腕前だ。
 7月のギャラリー403の個展に展示する予定。ぜひ実物の作品を見てください。


(遺族所有)