「作曲家の個展 2013」権代敦彦を聴く

 サントリーホールで「作曲家の個展 2013」権代敦彦を聴いた(10月11日)。権代は1965年生まれ、12歳の頃聴いたメシアンの音楽に惹かれ、作曲を志す。メシアンの音楽を通じ、カトリックへの関心が深まり、洗礼を受け、教会オルガニストも努める。
 サントリーホールの「作曲家の個展」は、一人の作曲家のオーケストラ作品だけの演奏会で、今回は4つの曲が演奏された。権代を初めて聴いたのは、サントリーホールの2003年の『2台のピアノのための「69」』で、園田高弘一柳慧のピアノ二重奏だった。これが良かった。このとき権代の名前を記憶した。次に2007年のサントリーホール・リニューアル記念演奏会で、今回も最初に演奏された『母 コーラ/マトリックス』を聴いた。これはオルガンと笙のための作品で、パイプオルガンと笙だけの二重奏だった。当時の感想が「がっかり」だったが、今回も同じような印象を持った。ついで聴いたのが、2010年2月のピアノ独奏曲『無常の鐘』、矢沢朋子が演奏した。とても良かった。同じ年の8月にも同じ曲を有森直樹の演奏で聴いた。これが矢沢よりもっと良かった。いつだったか、FM放送でもオーケストラ作品を聴いて、権代のオーケストラ曲を聴くのを楽しみにしていた。
 1曲目の『母 コーラ/マトリックス〜オルガンと笙のための作品』は、演奏前の権代の話では、サントリーホールがリニューアルされて最初に鳴る音を意識して作曲したというが、終始静かな曲であまり感銘は受けなかった。続く2曲目が『デカセクシス〜オーケストラのための作品』で、ようやく期待の作品かと思ったが、これもさほど感心しなかった。
 休憩時間のあとの3曲目が『子守歌〜メゾ・ソプラノ、ピアノ、児童合唱とオーケストラのための作品』で、これがすばらしかった。テキストが2001年の大坂池田小学校の児童殺傷事件で殺された女の子のお母さんの手記を元にしている。大坂の22世紀クラブから鎮魂歌を依頼されたが、鎮魂歌は書けなかったという。代わりにこの曲が書かれた。波多野睦美のメゾ・ソプラノがすばらしく、児童合唱も、向井山朋子のピアノもとても良かった。
 テキストは亡くなった子のお母さんの手記だが、権代は旧約聖書の「知恵の書」と「死者のためのミサ曲」からも採っている。そして曲の最後をミサ曲からのテキストで締めくくっている。

神に喜ばれていた人がいた。彼は神から愛され、罪人のなかで生活していたとき、天に移された。悪が心を変えてしまわぬよう、偽りが魂を惑わさぬよう、彼は天に召された。悪の魅力は善を曇らせ、渦巻く欲望は純真な魂をかき乱す。彼は短い間に完成され、長寿を満たした。彼の魂は御心に適ったので、主は急いで彼を悪の中から、取り去られた。/おやすみ おやすみ……

 メゾ・ソプラノと児童合唱が「ずっと/一緒だからね」「おやすみ おやすみ」と歌う。
 子を悼む母親の手記をテキストにしているので、直接娘の名前玲奈が歌われるなど、少々「生」の部分もあるが、権代はこの曲を娘の鎮魂ではなく、子を亡くした母親を慰藉するために書いているのだ。オーケストラとメゾ・ソプラノと児童合唱とピアノが、みごとにそれを実現している。
 声とオーケストラの作品といえば、武満徹の『系図(Family tree)』と三善晃の『「響紋」〜オーケストラと童声合唱のための』を思い出すが、そこにこの『子守歌」が付け加わった。
 最後の曲が、今回初演の『デッド・エンド〜オルガンとオーケストラのための作品』で、これは良かった。いずれも指揮は山下一史、東京都交響楽団
 次は藤家渓子の作曲家の個展が聴きたい。