雑誌「本」の表紙に取り上げられた浅見貴子


 講談社のPR誌「本」は毎月現代美術の作家を選んで表紙に取り上げている。2011年1月号は浅見貴子が採用された。選んでいるのは高階秀爾、現代最も権威のある美術評論家だ。まずなぜ高階が現代美術の作家に詳しいかといえば、長くVOCA展の選定委員長を務めているからだ。VOCA展は40歳以下の平面の作家を全国数十人の学芸員や評論家が推薦し、それを選定委員会が選定するというシステムになっている。その委員長である高階は居ながらにして、旬の現代美術作家を見ることができるのだ。そして高階は優れた美術評論の書き手だ。
 浅見は1964年埼玉県生まれ、多摩美術大学日本画専攻を卒業している。あちこちの画廊で個展を繰り返しているが、今年大原美術館で滞在制作をし、そこで個展も行われた。そのすぐ後で銀座の藍画廊で話したことがあった。今の私って良いと思われているんでしょうね、でもちっともそんなことないんですよ。何を言われるんですか、大原美術館の滞在制作に取り上げられて、とても高く評価されているじゃあないですか。そんな話をしたばかりだった。
 浅見は長く墨を散らした抽象を描いてきた。それがここ何年か形を描くようになってきた。それがすばらしいと思われた。なぜか長く抽象を描いてきた作家が形を描き始めると優れた表現になるようなのだ。中津川浩章もそうだった。今回の表紙の作品のタイトルは「松の木」となっている。
 高階秀爾の解説から。

 一見したところ、画面は大小さまざまの墨の点を滴らせた抽象模様のように見える。大きな塊はまるで雪の上の動物の足跡のようであり、微細な点の連りは蟻の行列を思わせる。しかしそのなかでのびやかに伸びる描線に眼をとめると、乱雑に散らばっていると見えた点は葉叢(はむら)となって秩序づけられ、枝ぶりの豊かな樹木の姿が立ち現われる。同時に、白地の部分は遠くに拡がる空となり、空気が流れ、光に満ちた空間が生まれる。それは、墨による新しい世界創造と呼んでもよいだろう。
(中略)
……明るい光と爽やかな空気が息づく清新な風景を生み出したこの作品は、たしかに一人の傑出した才能の存在を物語っているのである。

 昨年だったろうか、銀座の柴田悦子画廊で浅見の個展を見たとき、私も彼女の一段高みへ登った境地を実感したのだった。