川本三郎の「小説家たちの休日」では65人の作家が取り上げられた

 川本三郎・文、樋口進・写真「小説家たちの休日」(文藝春秋)を読んだ。副題が「昭和文壇実録」という。見出しと作家の簡単な略歴で1ページ、写真で1ページ、文章がそれぞれ4ページという構成で、400ページの本に65人の作家が取り上げられている。写真の樋口進は1922年生まれ、1953年に文藝春秋に入社し、写真部を設立したとある。作家たちの多くがまだ若い。川本三郎の文章も短いせいもあって、簡にして要を得ている。雑誌「諸君」に2000年から4年間連載されたもの。
 しかし65人の作家たちのうち、半分近くの作家の作品を一度も読んだことがないのに我ながら驚いた。まあ、決して小説好きではなかったが。若い頃は外国小説しか読まなかったし。この本で初めて名前を聞いた作家さえいた。井上友一郎は戦後の流行作家だったという。知らなかった。
 写真が1ページと大きくレイアウトされている。その写真の印象。
 荷風が裸の踊り子の肩を抱いてにやけている。広津和郎はいかにも頑固で無口な印象だ。佐藤春夫はさすがに貫禄がある。吉川英治は田舎のおっさんのようだ。宇野千代ってもっとすごい美人かと思った。大宅壮一は想像してたとおりの顔だ。林芙美子はこれを見るまで不細工かと思っていた。舟橋聖一も裸の新宿のストリッパーと一緒に写っている。田村泰次郎の杉並の豪邸はすごい。これに比べれば松本清張の家が「小市民の住宅に見える」と川本は書いている。檀一雄は「火宅の人」で描かれた愛人と写っている。彼女の何がそんなに魅力的だったのだろう。もしかして床上手だったのだろうか。いや、それって大事なことなのだ。学生時代の江藤淳のちょっと生意気そうな顔。いや写真が十分面白かった。
 もっとも本書の中心は川本の文章にある。作家たちをエピソードを重ねて紹介していく。たとえば、大佛次郎について。

 大佛次郎は、戦争中、疎開をしなかった。出来なかった。猫好きで、当時、12匹もの猫を飼っていて、それを連れて疎開することは無理だったからである。
 生涯に飼った猫の数は500匹を超えるというから驚く。本当の猫好きだったなと思うのは、シャム猫のようなきれいな猫だけではなく、皮膚病の猫や、目の見えない猫まで可愛がったこと。捨て猫を見ると拾ってきた。

 猫の話があると、どうしても甘くなってしまう。うちにも11歳、体重6kgの雄猫プーがいるから。


小説家たちの休日―昭和文壇実録

小説家たちの休日―昭和文壇実録