佐藤賢一『最終飛行』を読む

 佐藤賢一『最終飛行』(文藝春秋)を読む。ふだんあまり小説を読まないが、本書はサン・テグジュペリを描いているという。サン・テグジュペリは好きな作家だ。読まずばなるまい。

 サン・テグジュペリといえば、『南方郵便機』『夜間飛行』『人間の土地』『戦う操縦士』それに『星の王子さま』がある。『星の王子さま』を除いて50年以上前に何度も読んだ。とくに『人間の土地』が好きだった。

 『最終飛行』はサン・テグジュペリの第2次大戦中の活躍を描いている。対ドイツ戦の偵察機の操縦士として危険な任務を行い、最後に墜落死してしまう。その戦争前から亡くなるまでの行動を操縦士としての活躍を中心に描いている。とはいえ、本書は小説だ。伝記同様事実を大きく外れて書くことはできない。同時に小説として豊かな膨らみも期待される。難しい仕事だと思う。しかしそのことに佐藤は成功していない。

 サン・テグジュペリの行動=粗筋を大きくは外さないで小説としての肉付けができているかと言えば不十分だと言わざるを得ない。粗筋に引きずられてわずかな肉付けしかできていない印象だ。

 加えて、闘う操縦士の側面に力を入れていて、作家としての側面の描写が希薄だ。佐藤が取り上げている戦争中のサン・テグジュペリは、『戦う操縦士』や『星の王子さま』を書いてもいた。そのことの言及がほとんどない。作家の人生を取り上げて作品への言及がなかったらそれこそ片手落ちのそしりを免れないだろう。

 小説の豊かさが感じられないことと作品への言及がないことで、本書を評価することができない。520ページもある大著なのに。