大石芳野写真集「ソビエト遍歴」

 最近朝日新聞夕刊で様々な有名人への短いが数回に及ぶインタビュー記事が掲載されている。半月ほど前が写真家の大石芳野だった。
 娘に、この大石芳野って父さんの友達がとても仲良くしている人だよと言うと、ええっすごいじゃん、私大石さん好きだよ、「ソビエト遍歴」っていう写真集が好きなんだ、図書館から何度も借りたよ、ちょっと悲しい内容だけど、と言う。
 それで私も見てみたいと思って図書館で借りてきた。「大石芳野 写真集  ソビエト遍歴」(日本放送出版協会)1991年発行、B5版250ページもある大型写真集だ。あとがきに「ソビエト連邦15構成共和国のうち11構成共和国を、合わせて約3ヵ月間訪れて撮影した」とある。
 ペレストロイカ政策がとられたものの混乱が続いている。民族対立がすさまじい。チェルノブイリ放射能汚染の写真もある。写真の伝える情報が豊かですばらしい。短いキャプションが絶妙だ。

1990年1月にアメリカのマクドナルドがモスクワに進出し大人気を得ている。連日長蛇の列ができ、1時間半も待ってやっとお目当てのハンバーグにありつけるほどだ。

言論の自由が許され、集会や路上での個人的なディスカッションも増えた。口論の末、争いになることも少なくない。

リガ郊外にあるサラスピルス強制収容所跡はナチス・ドイツによって造られた。1941〜44年に、ここで10万人が殺された。第二次世界大戦に命を失ったラトビア人は31万4000人に達した。この花嫁は祖父がここで命を奪われたという。結婚の報告に連れ立って訪れた。

すべての家財道具は郷土の放射能に汚染されている。

アゼルバイジャンの首都バクー。最高会議前のレーニン広場で、ソ連軍の装甲車が威嚇するように配置されていた。90年1月のバクー事件は、アルメニアとの民族紛争を機にソ連軍の銃口が市民に向けられ、100人が死亡した。

ヴェリ・シェフィカ(68)は「故郷のクリミアに戻りたい。戻ってすぐに死んでもいいから」と、民俗の不幸を嘆いたあと静かにそういった。夫を亡くした彼女はタシケントのアパートで一人暮しだ。

 とてもいい写真集だ。優れたレポートだ。