山本弘の作品解説(16)「黒い丘」


「黒い丘」、油彩F10号(53cmx45.5cm)
 1978年の制作と記されている。山本弘48歳、おそらく10月の飯田市中央公民館での最後の個展で発表された。不自由な体で車椅子か何かに乗って細かく展示の指示をしていたことを思いだす。酒浸りだった。2年間もの長期間!禁酒していた酒を前年からまた飲み始め、個展の会期中も文字通りぐでんぐでんだった。
 この後も飲み続け、翌1979年は本格的なアルコール中毒だったと未亡人が言う。ただ作品は描き続けた。1980年にアル中治療のため飯田病院精神科に入院、1年余の入院の後1981年4月頃退院し、3か月後の7月15日亡くなる。縊死だった。享年51歳。友人の自殺とともに生涯で最も悲しいことの一つだ。弘さんが亡くなる年の春、私に娘が生まれたので、今が山本弘没後何年になるかいつでも正確に言うことができる。
「黒い丘」は昨年のギャラリー汲美での山本弘遺作展でも展示された。地味な絵なのに、画家たちの圧倒的な支持を受けた。ほとんど絶賛されたと言ってもいいくらいだった。画面の左端中央に四角い黒の塗り残しがある。黒の下の黄土色が見えている。この効果が絶妙なのだと言う。私にはそこまでは分からない。山本弘展の翌月急死したギャラリー汲美の画廊主磯良さんも、今回の個展の中で最高の作品だと言われた。強い作品であることは私にも分かった。

(未亡人所蔵)