山本弘の作品解説(81)「壺」


 山本弘「壺」、油彩、F6号(41.0cm×32.0cm)
 1976年制作。単純な形の壺を画面いっぱいに描いている。壺の表面そのものは筆で平塗りをしているが、壺の模様なのか荒れたような釉薬の表情なのか、それをかなり激しく筆跡を暴れさせて描き込んでいる。つるんとした壺の地肌と荒れた釉薬の肌。その対比を面白く思ったのだろうか。
 2007年4月の日本橋のギャラリー汲美での個展に展示した。汲美では3回個展を開いたが、いつも作品をオーナーの磯良さんと私が半分ずつ選んでいた。これは磯良さんが選んだもの。その時展示した壁の位置まで憶えている。当時、ベテランの抽象画家Oさんとこの作品について話した。私がこの作品が分からないと言うとOさんが驚いて、どうしてこの作品の良さが分からないのかと半ば詰問調で言われた。私が理系なのをとらえて、理系の人間には分からないのだろうかと真剣に悩まれた。
 思えば、初めて山本弘未亡人宅を訪ねて小品を2点買ってくれた著名なコレクターHさんが、山本さんは優れた画家だが半分は失敗作だねと言った。後日そのことを話すと東邦画廊の中岡氏が、山本さんに失敗作はひとつもないよと断言した。
 私も今ようやく失敗作はひとつもないことを知っている。不肖の弟子です、すみません。