ギャラリー戸村で2月7日から始まった山本弘展の会期もあと2日を残すのみとなった。山本弘とはどんな画家なのか。山本は1930年に長野県で生まれ、生涯のほとんどを長野県飯田市で過ごして、1981年、いまから30年前に51歳で亡くなった。ひどいアル中の果ての自死だった。
生涯無名で亡くなったが、没後10年ほど経って美術評論家の針生一郎さんに作品を見ていただいた。初見で山本の作品を高く評価をされ、その後飯田市の山本弘未亡人愛子さん宅へ、残された作品を見るためにわざわざ足を運んでくれた。
針生さんは山本の作品をすべてていねいに見られながら、ときどき声をあげられた。読売新聞にもこう書かれている。
……1点1点みせてもらいながら、しばしば目をみはり、何度も感嘆の声をあげた。初期の暗鬱な色調をもつ写実的な画風から、しだいに形態の単純化と色彩の対照による内面の表出へと転換する。とりわけ注目されるのは、生活が荒廃しても、体力が衰えても、絵画の質の高さは失われないことである。晩年はむしろ、非具象ともいえる奔放な筆触と色塊のせめぎあいのうちに、極限まで凝縮されたイメージがあらわれる瞬間をとらえようとしている。
針生さんは山本の絵を見ながら、これは松本俊介よりいいとか、これは香月泰男よりいいとか言われた。ある講演会で針生一郎さんは、戦後の日本の画家では、松本俊介と鶴岡政男、麻生三郎を最も評価すると話された。その松本俊介より良いとまで言われたのだった。
最初に山本弘を扱ってくれた画廊主は、(山口)長男先生が生きておられたら、お前もようやくいい画家に巡り会えたなと褒められたのに、と残念がった。その画廊の扱う代表的な画家が難波田龍起だったから、その画廊主は山本を難波田より高く評価したということだろう。
やはり山本弘展を3回も開催してくれたギャラリー汲美のオーナー磯良さんも、山本先生は歴史に残る画家ですねと言われた。
美術評論家の瀬木慎一さんは兜屋画廊での山本弘展に来られた折り、同じ画廊で次回に予定されている放浪の画家村上肥出夫に触れて、村上は俗だけれど、あんたの先生の芸術はこんなに高いよと手を頭上に高く上げられた。
山本は長谷川利行が好きだった。酒に溺れた生活という点で、山本と利行には共通するものがあるが、利行の絵画はアウトサイダー美術に近く、美術の正道からみれば周辺に位置しているだろう。利行の作品がしばしば即興的に描かれ、構成の点で弱いことがそれを証している。それに対して、山本の絵画は利行のものとは全く異なり、色彩にも構成にも優れた正当な美術作品だ。
仮に私が山本弘の弟子という立場を離れても、師の作品は非常に優れたもので、確実に日本の絵画史に残ると断言できる。今回針生さんが絶賛した晩年の作品を並べている。亡くなる前のわずか2,3年間ににこんなにも多様な画風を示した山本をぜひ体験してほしい。山本弘展の会期は今日明日と2日を残すのみとなった。この機会にギャラリー戸村へぜひ足を運んで、直接山本弘の作品を見てほしい。18日(金)は午後6時半まで、最終日の19日(土)は午後5時までだ。
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山本弘展
2011年2月7日(月)〜2月19日(土)
11:00〜18:30(土曜〜17:00)
日曜・祝日休廊
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ギャラリー戸村
東京都中央区京橋2-8-10 丸茶ビルB1
電話 03-3564-0064
http://www.gallery-tomura.com/