私の最も好きな言語学者、田中克彦「エスペラント」(岩波新書)より。
これらの新しい書きことばは、民族の独立を準備し、民族が民族であると主張できる根拠・シンボルとして新しい価値を獲得した。ルーマニア語、エストニア語、フィンランド語、スロヴェニア語、ブルガリア語、スロヴァキア語などなど、今日知られているヨーロッパの有名な言語はこの時期に生れたのである。そしてこれらの言語とともにそれらの言語を求める民族と国家が成立した。このことをイディシュ言語学者のマックス・ワインライヒは「国家とは陸海軍をそなえた方言である」と表現したのである。
もし沖縄や津軽、大阪でさえ日本から独立したら、沖縄語や津軽語、大阪語が正式な国語として成立するのだ。
本書によればエスペラントはやさしい言語で、トルストイはわずか2時間でマスターしたというし、本書の担当編集者(早坂さん)は「私の引いたエスペラント文やその訳文のなかの間違いを、めざとく発見されるまでにエスペラントに上達されたのである。(中略)だからといって、その急速なる上達は早坂さんの才能によるというよりは、エスペラントのできのよさに帰せられるべきだと思っている。」
宮沢賢治もエスペラントを学んでおり、彼の「イーハトーブ」はエスペラントで「岩手の卵」を意味するという。