ボケの挿木



 港区外苑前の民家にボケの木があった。春には深紅の花が咲き、隔年くらいにボケの実が生った。ボケの実は誰も採らないようで、翌春にはしぼんだ実が木に残っていた。

 深紅の花がきれいだったので、昨年の初夏にこっそり20cmくらいの小枝を折り取った。帰宅して挿木床(砂を敷き詰めた小さなプランター)にそれを挿した。夏には葉が伸びてきたので植木鉢に移植した。しかし、それ以上伸びることはなく、根元の葉を残して落葉してしまった。

 根元の葉は秋になっても元気で、そのまま日なたに置いて毎日水やりした。秋になって外苑前の民家の辺りに行ったら景色が変わっていた。あの民家は取り壊されて更地になり、新しい建物が建てられるようだった。間口に比べて奥行きがあり、見かけより広い土地だった。ボケの木は引き抜かれ、残材になってしまったのかもしれない。

 年末になって、ボケの鉢植えをよく見たら、根元の葉はもちろん、落葉していたところにも小さな赤い芽を付けていた。再来年辺りにはあの深紅の花を咲かせるのだろうか。

 そういえば、もう十数年前も近所のアパートの一角に富士桜が植えられていた。富士桜は花の後に大量のサクランボを実らせた。小鳥が集まって来て啄んでいたが、道路に落ちる実も多かった。落ちたサクランボを拾って来て種を取り出して播種した。やがて発芽していまはベランダで鉢植えになっている。

 このアパートの富士桜もある日アパートが取り壊され、やはり切り倒されてしまった。でも大丈夫、やはり私のベランダで命を繋いでいるのだから。